愛のかたち

6

「あんたさぁ、奥さんもらう資格ねぇんじゃねーの？　奥さんはあんたの所有物じゃねーだろ。前からすげぇ気になってたんだよ。奥さん嘲って楽しんでんのか？　聞いてたらイライラすんだよ！」

　彩華は野上の剣幕に圧倒されて動けなくなっていた。

「何だと！？　俺が自分の嫁をどう扱おうが、お前には関係ねーだろが」
「関係ねーから言うだけに留めてんだろ！　関係あったらとっくに殴ってるさ。あんたの言葉は、よくある謙遜じゃなくて、彼女を侮辱してるだけだ」

　彩華がおろおろしていると、カウンターから健太が出てきた。

「翔、お前が悪いよ。いい加減にしとけ」

　そう言って二人の間に入った。

「野上さん、すみません。こいつ、俺のガキん時からの連れで、悪い奴じゃないんです……」
「ああ、いや……こっちこそすみません。健さんの店でこんなこと……」

　野上はそう返すと、倒れた椅子を静かに起こした。

　バツが悪そうに翔がトイレに立つと、野上が顔を覗き込んできた。

「余計なことだったかな。ごめんね」
「いえ、そんな……。お恥ずかしいです。本当にすみませんでした」
「酔いが醒めた時、白藤さんが俺のこと何か言ってたら、電話するように言って」

　そう言うと、野上はポケットから出した名刺を彩華に差し出した。


「彩華、帰るぞ！」

　トイレから出てきた翔はカウンターに叩きつけるように万札を置くと、釣りも受け取らずに店を出ていった。

「彩ちゃん、またね」

　健太はいつも通りの優しい笑顔でそう言ったが、野上は複雑な表情を浮かべていた。彩華は野上と健太にもう一度「すみません」と頭を下げてから、慌てて翔の後を追った。