特効薬と副作用

凛子

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 翌週も、徹と自宅でまったりと過ごしていた。

「あ、そうだ。来週の社員旅行に、念の為お薬持ってこうと思うんですけど、この前徹さんにもらった頭痛薬、少し分けてもらうことって出来ませんか?」
「あー、ごめん。今切らしてるんだ」

 徹が申し訳なさそうに眉根を寄せた。

「あ、それならいいんです。あれ、よく効いたから持ってると安心だなって思っただけなんで……」

 いつもの市販薬を持っていこう、と希はさほど気にもしていなかった。

「あのさぁ、希ちゃん?」
「はい」

 徹は一瞬躊躇うように下唇を噛んでから、「怒らないで聞いて欲しいんだ」と言って、いつになく真剣な表情を見せた。

「えっ、何ですか?」

 胸騒ぎを覚え、途端にこめかみの辺りに締め付けられるような激しい痛みが起こった。

「希ちゃんさぁ、プラセボ効果ってわかる?」
「え? ああ、聞いたことあります。有効成分が入ってない偽物のお薬を飲んでも、お薬を飲んだっていう安心感で治っちゃうみたいなことですよね?」
「うん、そうそう、それ」

 数秒前に見せた硬い表情とは裏腹で、やけに明るい徹の口調に、希は戸惑いを隠せなかった。

「それが、何ですか?」
「希ちゃんは簡単に信じちゃうから……」

 徹がくすっと笑った。

「製薬会社に勤めてるからって、薬を分けてもらうなんて出来ないんだよ。そんなことしたら、俺、捕まっちゃうからね」

 徹が言うことになんの疑いも持たなかったが、よく考えれば確かにそうだ、と、希は今頃になってその不自然な言動に気付く。
 製薬会社には、厳重に保管されている薬品なんかもたくさんあるはずだ。薬を簡単に持ち出すなんて出来る訳がない。

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