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一話
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ある日突然、見知らぬ人からキスをされたら、人はどんなリアクションをとるのだろうか、と北山景子は考える。
例えば、前からやって来るちょっとヤンチャそうなこの彼に……などとおかしな妄想をしていると視線がぶつかり慌てて逸らした。
流石にそんなことは出来ないけれど……。
次にやって来るスーツの彼を、じっと見詰めることは出来る。そして目が合ったら、軽く会釈する。すると彼は眉を少し上げてから、景子に会釈した。
なぜなら、昨日も同じことをしたからだ。
「戻りましたー」
昼休憩を終えた景子が店のガラス扉を開け、軽やかな声で言った。
「おかえりなさーい」
と数人の明るい声が返ってくる。景子はアパレルショップで販売員として働いている。
「ねえ景子、どうだった?」
同じく販売員で友人の橋野広美から声を掛けられた。
「あ、広ちゃん! いたよ! いたいた!」
「じゃあやっぱり会社がこの辺なのかもね。良かったじゃん」
「うん。もうすっごいドキドキしちゃったよ」
景子は嬉しさが抑えきれず、頬が緩みっぱなしだった。
「その彼、今頃すっごい考えてるんだろね。『誰だ? 取引先の人か? いや、この前行った居酒屋の店員か?』なんてね」
慣れた手つきでカットソーを畳みながら広美はクスクス笑った。
「でも、考えてもらえてたら成功だよ。ちょっとでも私の存在を印象付けれたってことだよね? それが好印象だといいんだけど……」
景子は小さく息を吐いてから少し唇を尖らせた。
「そりゃあ印象には残るよ。こんな美人から、にこりともしないで会釈されたらね」
「やだ……言わないでよ」
景子は唇を尖らせたまま、ぷう、と頬を膨らませた。
「うーん……見た目は問題なし! だけど……極度の人見知りってとこに少々問題あり、かな」
広美も同じように唇を尖らせた。
「だよね……かなり問題ありだよ」
「ほんと、それでよくアパレル販売員やってるよね」
広美はズケズケと物を言う。けれども裏表のないそんな広美の性格が景子は好きだった。
「自分でも思うよ。でも不思議なことに、好きなこととか興味のあることに関しては積極的になれるみたい……」
「顧客の数は、景子が断トツだもんね。景子の内面から溢れ出してるものにみんな惚れちゃうんだよ、きっと。天職だね」
そんな広美からのその言葉が景子は物凄く嬉しかった。
「それだったらさあ、彼も一緒じゃないの? 好きな人だし、興味のある人だし……積極的になれるんじゃないの?」
広美にそう言われて、ああ、確かに、と一瞬思ったが……
「いや、それとこれとは全然違うじゃん! そうなれないから困ってるんだよー! 自分から積極的にって、声を掛けるってこと? そんなの絶対無理無理ー!!」
とかぶりを振って否定した。
「じゃあさあ、もういっそのこと『クールな女』ってことでいいじゃん」
「え?」
「無理してニコニコ愛想振りまくより『クールビューティー』的な? そっちのほうが景子らしくていいんじゃない? うん、クールビューティー……景子の為にあるような言葉じゃん。まあそれが彼に刺さるかどうかはわかんないけど……」
「おお……なるほど。人見知りもクールって言っちゃうと何か悪くないような気になってきたかも」
広美の提案に妙に納得してしまった。
「私は全然悪いとは思ってないよ。人見知りな性格の人って、聞き上手だったり、冷静に物事を見れたりするし、初対面ではすぐに打ち解けれないってだけじゃん。でもそれは、景子のことちゃんとわかってる私が言うことで……今回に限っては、何かアクションを起こさないと進展は難しいかなと思っただけ。だから景子の計画、きっかけ作りにはいいと思うな」
広美に言われ、ずっと短所だと思っていた自分の性格を、それほど悲観することもないのかもしれないと思えた。
例えば、前からやって来るちょっとヤンチャそうなこの彼に……などとおかしな妄想をしていると視線がぶつかり慌てて逸らした。
流石にそんなことは出来ないけれど……。
次にやって来るスーツの彼を、じっと見詰めることは出来る。そして目が合ったら、軽く会釈する。すると彼は眉を少し上げてから、景子に会釈した。
なぜなら、昨日も同じことをしたからだ。
「戻りましたー」
昼休憩を終えた景子が店のガラス扉を開け、軽やかな声で言った。
「おかえりなさーい」
と数人の明るい声が返ってくる。景子はアパレルショップで販売員として働いている。
「ねえ景子、どうだった?」
同じく販売員で友人の橋野広美から声を掛けられた。
「あ、広ちゃん! いたよ! いたいた!」
「じゃあやっぱり会社がこの辺なのかもね。良かったじゃん」
「うん。もうすっごいドキドキしちゃったよ」
景子は嬉しさが抑えきれず、頬が緩みっぱなしだった。
「その彼、今頃すっごい考えてるんだろね。『誰だ? 取引先の人か? いや、この前行った居酒屋の店員か?』なんてね」
慣れた手つきでカットソーを畳みながら広美はクスクス笑った。
「でも、考えてもらえてたら成功だよ。ちょっとでも私の存在を印象付けれたってことだよね? それが好印象だといいんだけど……」
景子は小さく息を吐いてから少し唇を尖らせた。
「そりゃあ印象には残るよ。こんな美人から、にこりともしないで会釈されたらね」
「やだ……言わないでよ」
景子は唇を尖らせたまま、ぷう、と頬を膨らませた。
「うーん……見た目は問題なし! だけど……極度の人見知りってとこに少々問題あり、かな」
広美も同じように唇を尖らせた。
「だよね……かなり問題ありだよ」
「ほんと、それでよくアパレル販売員やってるよね」
広美はズケズケと物を言う。けれども裏表のないそんな広美の性格が景子は好きだった。
「自分でも思うよ。でも不思議なことに、好きなこととか興味のあることに関しては積極的になれるみたい……」
「顧客の数は、景子が断トツだもんね。景子の内面から溢れ出してるものにみんな惚れちゃうんだよ、きっと。天職だね」
そんな広美からのその言葉が景子は物凄く嬉しかった。
「それだったらさあ、彼も一緒じゃないの? 好きな人だし、興味のある人だし……積極的になれるんじゃないの?」
広美にそう言われて、ああ、確かに、と一瞬思ったが……
「いや、それとこれとは全然違うじゃん! そうなれないから困ってるんだよー! 自分から積極的にって、声を掛けるってこと? そんなの絶対無理無理ー!!」
とかぶりを振って否定した。
「じゃあさあ、もういっそのこと『クールな女』ってことでいいじゃん」
「え?」
「無理してニコニコ愛想振りまくより『クールビューティー』的な? そっちのほうが景子らしくていいんじゃない? うん、クールビューティー……景子の為にあるような言葉じゃん。まあそれが彼に刺さるかどうかはわかんないけど……」
「おお……なるほど。人見知りもクールって言っちゃうと何か悪くないような気になってきたかも」
広美の提案に妙に納得してしまった。
「私は全然悪いとは思ってないよ。人見知りな性格の人って、聞き上手だったり、冷静に物事を見れたりするし、初対面ではすぐに打ち解けれないってだけじゃん。でもそれは、景子のことちゃんとわかってる私が言うことで……今回に限っては、何かアクションを起こさないと進展は難しいかなと思っただけ。だから景子の計画、きっかけ作りにはいいと思うな」
広美に言われ、ずっと短所だと思っていた自分の性格を、それほど悲観することもないのかもしれないと思えた。
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