気付けよ

凛子

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改札の手前で繋いでいた手を離したが、改札を抜けるとしれっと樹音の手をとった。家に送り届けるまでこのままでいたい。
だが、そんなことはおくびにも出さず、マンションが近付くと「今日はサンキューな」と俺はあっさりと伝える。

「楽しかったね。うさぎ可愛かったねぇ。また会いに行きたいなぁ」
俺が無理を言って頼んだことなのに、満面の笑みでそんなことを言う樹音が愛おしくて仕方なかった。

「おう、アイツすげぇ可愛いかったよなぁ……人って、自分に似てる生き物を可愛いと思うんだってさ。アイツお前に似てたもんな」
"お前に似てる"と"可愛い"を連発したが、樹音は気付いただろうか。

俺が約束のチケットを分配すると言うと、樹音はとびきりの笑顔を見せた。その笑顔が見たくて、ファンクラブにまで入って手に入れたのだ。
俺はチケットが二枚あることを伝えて、誰と行くのかと尋ねると、樹音は眉をひそめた。

「え、徹とじゃないの?」
「え? 俺とかよ」
驚いた俺は、そんなふうにそっけなく返してしまった。
やっと気付いたのだろう。

「じゃあ誰と行くの?」
「いや、俺が聞いたんだよ。……なぁ、お前どういう意味で言ってる?」
さっきの俺の言葉の意味に気付いたのかと思っていたら、「え、何が?」と返され、俺は心底がっかりして顔をしかめた。

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