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4.購入者候補1
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すっかり静かになった元夫に構わず私は話を続けた。
ここからが本題だから。
「勿論、貴男に支払い能力がないのは解っているわ。結婚前に話してくれたように、貴男の実家にも支払う事が困難なのも含めてね。一応、実家の侯爵家に話をしたのだけれど『責任は全てシレネにある。侯爵家は金は一切出さない。シレネ本人に支払わせろ』ですって」
「っつ!」
「だからね、この慰謝料請求書を競売に掛ける事にしたの」
「…………は?」
「競売と言っても要は『請求書を買ってもいい』と考える人に声を掛けただけなんだけど。その結果、いい値を付けた奇特な方が今のところ三人いるわ。一人目は、ローゼンバルク公爵家。二人目は、北方を守る女辺境伯爵様。三人目は、とある男爵令嬢」
「なっ!?」
「あら? 何か不満かしら? 因みに、ローゼンバルク家は跡取り問題が年々激化しているわ。どれだけ凄いのかというと死人が出ないのが不思議なくらいかしら?だから公爵家は『癒しが欲しい』と常々仰っていてね。でも残念な事に公爵家は大の動物嫌いでペットを飼う事が困難なの。あんなに可愛らしいのに、小動物では癒しにならないらしいわ。それどころかストレスの対象になるとまで言う位の筋金入り。だからね、貴男の事を話したの。そしたら『是非、飼いたい』と仰っていたわ」
「……」
「辺境伯爵様は私と同じ女性当主よ。まぁ、向こうは武断派。私とは格が違うわね。あちらも昔の私同様に婿のなり手を探しているそうなの。辺境伯爵様本人が文武両道な方だから婿に優秀さは求めていないらしいわ。寧ろ、『優秀だと何かと扱いづらいし悪知恵が働いたりするから必要ない』とまで仰っていたわ。ただ、『跡取り候補は最低でも三人は欲しい』と希望していたわね。貴男はそっちの方は大変優秀だとお伝えしたら大変喜ばれて『素晴らしい種だ』と絶賛されていたわ。私より少し年上の三十歳だけど、キリッとした長身の美女よ」
「……」
「最後の男爵令嬢は、十八歳のとても綺麗なお嬢さんでね。綺麗すぎて高貴な人の目に留まってしまったの。美しいって罪よね。高貴な人は男爵令嬢に夢中で、結婚したいとまで言い出してしまったから、さぁ大変。高貴な人と結婚するには彼女は身分を始めとした諸々のモノが足りない。いいえ、足りないなんて言葉ではすまないわね。足りなさ過ぎた。高貴な人も泣く泣く結婚は諦めたわ。というよりも諦めるしかなかったそうよ。可哀想にね。それで周囲は彼女に婿を迎えさせようと考えたの。環境が変われば色々と変化していくものでしょう?それを皆が狙っているみたい。ただ、彼女との結婚条件が少し特殊でね。三年間は褥を共にしないというもの。その間、貴男も浮気はご法度。禁欲生活が続くけれど、たった三年ですもの。我慢できるわよね?」
「……」
青褪めた顔で体を震わせている元夫は半ば放心状態だった。言い方は悪いけれど、『愛玩動物』になるか、『種馬』になるか、『お飾り夫』になるかの三択。
私が彼なら答えは一択しかない。
「さあ、どうしますか? 公爵家か、辺境伯爵家か、それとも男爵令嬢か。どれを選んでも構いませんよ。貴男には選択の自由がありますから安心してちょうだい」
彼がこの話の裏に気付くかどうかで全てが決まる。
私は、どれを選んでも別にいいけれど……彼の尊厳と命を守るなら一つでしょうね。それに気が付いているかどうか……。
ここからが本題だから。
「勿論、貴男に支払い能力がないのは解っているわ。結婚前に話してくれたように、貴男の実家にも支払う事が困難なのも含めてね。一応、実家の侯爵家に話をしたのだけれど『責任は全てシレネにある。侯爵家は金は一切出さない。シレネ本人に支払わせろ』ですって」
「っつ!」
「だからね、この慰謝料請求書を競売に掛ける事にしたの」
「…………は?」
「競売と言っても要は『請求書を買ってもいい』と考える人に声を掛けただけなんだけど。その結果、いい値を付けた奇特な方が今のところ三人いるわ。一人目は、ローゼンバルク公爵家。二人目は、北方を守る女辺境伯爵様。三人目は、とある男爵令嬢」
「なっ!?」
「あら? 何か不満かしら? 因みに、ローゼンバルク家は跡取り問題が年々激化しているわ。どれだけ凄いのかというと死人が出ないのが不思議なくらいかしら?だから公爵家は『癒しが欲しい』と常々仰っていてね。でも残念な事に公爵家は大の動物嫌いでペットを飼う事が困難なの。あんなに可愛らしいのに、小動物では癒しにならないらしいわ。それどころかストレスの対象になるとまで言う位の筋金入り。だからね、貴男の事を話したの。そしたら『是非、飼いたい』と仰っていたわ」
「……」
「辺境伯爵様は私と同じ女性当主よ。まぁ、向こうは武断派。私とは格が違うわね。あちらも昔の私同様に婿のなり手を探しているそうなの。辺境伯爵様本人が文武両道な方だから婿に優秀さは求めていないらしいわ。寧ろ、『優秀だと何かと扱いづらいし悪知恵が働いたりするから必要ない』とまで仰っていたわ。ただ、『跡取り候補は最低でも三人は欲しい』と希望していたわね。貴男はそっちの方は大変優秀だとお伝えしたら大変喜ばれて『素晴らしい種だ』と絶賛されていたわ。私より少し年上の三十歳だけど、キリッとした長身の美女よ」
「……」
「最後の男爵令嬢は、十八歳のとても綺麗なお嬢さんでね。綺麗すぎて高貴な人の目に留まってしまったの。美しいって罪よね。高貴な人は男爵令嬢に夢中で、結婚したいとまで言い出してしまったから、さぁ大変。高貴な人と結婚するには彼女は身分を始めとした諸々のモノが足りない。いいえ、足りないなんて言葉ではすまないわね。足りなさ過ぎた。高貴な人も泣く泣く結婚は諦めたわ。というよりも諦めるしかなかったそうよ。可哀想にね。それで周囲は彼女に婿を迎えさせようと考えたの。環境が変われば色々と変化していくものでしょう?それを皆が狙っているみたい。ただ、彼女との結婚条件が少し特殊でね。三年間は褥を共にしないというもの。その間、貴男も浮気はご法度。禁欲生活が続くけれど、たった三年ですもの。我慢できるわよね?」
「……」
青褪めた顔で体を震わせている元夫は半ば放心状態だった。言い方は悪いけれど、『愛玩動物』になるか、『種馬』になるか、『お飾り夫』になるかの三択。
私が彼なら答えは一択しかない。
「さあ、どうしますか? 公爵家か、辺境伯爵家か、それとも男爵令嬢か。どれを選んでも構いませんよ。貴男には選択の自由がありますから安心してちょうだい」
彼がこの話の裏に気付くかどうかで全てが決まる。
私は、どれを選んでも別にいいけれど……彼の尊厳と命を守るなら一つでしょうね。それに気が付いているかどうか……。
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