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59.頭弁の溜息
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「はぁ……」
頭弁は、大きな溜息をついた。
このところ一段と宣耀殿女御の評判が悪くなっている。
元々の評判が悪いのに更に悪くなるとは……これ如何に。
(落ちるところまで落ちた、というべきか。落ちることができた、というべきか……)
底辺を這う評判の悪さだったのに。
これ以下って。更に下があったことに驚く。
部下を使って探りをいれさせたが、
「宣耀殿の女房は、女御さまの命令は絶対、という態度が鼻につきます。まあ、今に始まったことではありませんが。女御さまを恐れるあまり、顔色を伺ってばかりで、忠告する者は皆無です。これでは女御さまに何かあっても、誰一人として助け船を出さないのでは?そこまでいくと、もはやお手上げです」
「宣耀殿の女房が、他の女房に辛く当たることもしばしば。特に身分の低い女房への当たりは酷いです。また、女御さまが何をおっしゃっても、それが正しいと信じている様子。いえ、そうするように振る舞っているのでしょう」
「宣耀殿の女房は統率がとれていますが、それは女御さまを恐れているからに他なりません。恐怖による支配とでもいいましょうか」
などなど……。
とにかく悪い話しばかりが耳に飛び込んでくる。
女房は保身の塊。
(これはもう……どうしようもない)
頭弁は頭を抱えた。
「尚侍さまからの報告もあるしな……」
「体罰は受けていないようで良かったです」
「本当にな……」
尚侍からの文には、女三の宮の日常がこと細かに書かれていた。
「想像以上でした」と。
些細なことで暴言を吐かれ、躾だと言って食事を与えられなかったり。
女御の機嫌が悪い時は夜でも外に放り出されることもあったらしい。
尚侍は、今はいい。季節的にも過ごしやすくなっているから。
だが、冬になったらどうなるか……と案じていた。
(冬でも外に放り出すと……幼子を……)
同じ人とは思えない。
それとも凍死させるつもりなのか。
部下は体罰がなくて良かったと安堵しているが、それも時間の問題だろう。
「決定的な何かがあればな……」
「決定打、ですか?」
「そうだ」
頭弁は頷く。
(女三の宮さまの自己申告だけでは弱い。しかし、宣耀殿の女房が、女御さまの言いなりになっているからな……証言は無理だろう)
女御が白といえば、黒であっても「白」と言うだろう。
それが宣耀殿クォリティーなのだから。
「宣耀殿の女房を一掃できれば良いのですが……」
「無理だな。どうせ同じような女房が補充されるだけだ」
「ですね」
左大臣家の女房選びの基準がどんなものかは分からない。
しかし、それなりの教養のある女房が選ばれているはずだ。
宣耀殿の女房たちも、その条件に当てはまっているのだが。
(いや、そもそも女御さまに逆らわないことが第一条件か?それとも仕えているうちにアレなってしまうのか?)
女御の影響力が強すぎて、屈してしまう女房が多いのだ。
助言も忠告も聞かない女御なのだから。
「さて……どうしたものか」
頭弁は、深い溜息をつくと考え込んだ。
悩んでいるうちが花。
騒動とはある日突然やってくるもの。
「大変です!」
「何事だ」
「宣耀殿女御さまが女三の宮さまに体罰を加えたそうです!」
「な、何?」
その知らせに驚いた。
いつかはするだろう、と思ってはいたが現実になると慌てふためく。
「まさか……女御さまご自身が?」
「はい、そうです」
「なんてことだ……」
「時次殿が女三の宮さまを庇われましたのでお怪我はないと!」
「何故、時次殿がいる!?」
「騒ぎに巻き込まれたようで……」
「はぁ!?」
「と、とにかく、一刻も早く宣耀殿に!」
「分かった、今行く!」
頭弁は、部下を連れて宣耀殿へと向かう。
騒ぎの真っ最中だったようで。
女房たちが右往左往している。
その先にいたのは当事者たち。
修羅場だった。
頭弁は、大きな溜息をついた。
このところ一段と宣耀殿女御の評判が悪くなっている。
元々の評判が悪いのに更に悪くなるとは……これ如何に。
(落ちるところまで落ちた、というべきか。落ちることができた、というべきか……)
底辺を這う評判の悪さだったのに。
これ以下って。更に下があったことに驚く。
部下を使って探りをいれさせたが、
「宣耀殿の女房は、女御さまの命令は絶対、という態度が鼻につきます。まあ、今に始まったことではありませんが。女御さまを恐れるあまり、顔色を伺ってばかりで、忠告する者は皆無です。これでは女御さまに何かあっても、誰一人として助け船を出さないのでは?そこまでいくと、もはやお手上げです」
「宣耀殿の女房が、他の女房に辛く当たることもしばしば。特に身分の低い女房への当たりは酷いです。また、女御さまが何をおっしゃっても、それが正しいと信じている様子。いえ、そうするように振る舞っているのでしょう」
「宣耀殿の女房は統率がとれていますが、それは女御さまを恐れているからに他なりません。恐怖による支配とでもいいましょうか」
などなど……。
とにかく悪い話しばかりが耳に飛び込んでくる。
女房は保身の塊。
(これはもう……どうしようもない)
頭弁は頭を抱えた。
「尚侍さまからの報告もあるしな……」
「体罰は受けていないようで良かったです」
「本当にな……」
尚侍からの文には、女三の宮の日常がこと細かに書かれていた。
「想像以上でした」と。
些細なことで暴言を吐かれ、躾だと言って食事を与えられなかったり。
女御の機嫌が悪い時は夜でも外に放り出されることもあったらしい。
尚侍は、今はいい。季節的にも過ごしやすくなっているから。
だが、冬になったらどうなるか……と案じていた。
(冬でも外に放り出すと……幼子を……)
同じ人とは思えない。
それとも凍死させるつもりなのか。
部下は体罰がなくて良かったと安堵しているが、それも時間の問題だろう。
「決定的な何かがあればな……」
「決定打、ですか?」
「そうだ」
頭弁は頷く。
(女三の宮さまの自己申告だけでは弱い。しかし、宣耀殿の女房が、女御さまの言いなりになっているからな……証言は無理だろう)
女御が白といえば、黒であっても「白」と言うだろう。
それが宣耀殿クォリティーなのだから。
「宣耀殿の女房を一掃できれば良いのですが……」
「無理だな。どうせ同じような女房が補充されるだけだ」
「ですね」
左大臣家の女房選びの基準がどんなものかは分からない。
しかし、それなりの教養のある女房が選ばれているはずだ。
宣耀殿の女房たちも、その条件に当てはまっているのだが。
(いや、そもそも女御さまに逆らわないことが第一条件か?それとも仕えているうちにアレなってしまうのか?)
女御の影響力が強すぎて、屈してしまう女房が多いのだ。
助言も忠告も聞かない女御なのだから。
「さて……どうしたものか」
頭弁は、深い溜息をつくと考え込んだ。
悩んでいるうちが花。
騒動とはある日突然やってくるもの。
「大変です!」
「何事だ」
「宣耀殿女御さまが女三の宮さまに体罰を加えたそうです!」
「な、何?」
その知らせに驚いた。
いつかはするだろう、と思ってはいたが現実になると慌てふためく。
「まさか……女御さまご自身が?」
「はい、そうです」
「なんてことだ……」
「時次殿が女三の宮さまを庇われましたのでお怪我はないと!」
「何故、時次殿がいる!?」
「騒ぎに巻き込まれたようで……」
「はぁ!?」
「と、とにかく、一刻も早く宣耀殿に!」
「分かった、今行く!」
頭弁は、部下を連れて宣耀殿へと向かう。
騒ぎの真っ最中だったようで。
女房たちが右往左往している。
その先にいたのは当事者たち。
修羅場だった。
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