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5.新尚侍 壱
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さまざまな憶測が飛び交う中、尚侍の出仕が始まった。
飛香舎の主である尚侍は、多くの女房や女官が行き交う回廊をゆったりとした足取りで渡ってゆく。その足取りに迷いはない。
彼女たちの値踏みするような視線も気にならないのか、気付かない振りをしているのか。
尚侍は気にする様子もなく歩みを進める。
「あれが、藤壺尚侍?」
「なんというか……」
女たちが言葉を濁すのも無理はない。
尚侍は、確かに美しい。
長い黒髪に白い肌。
淡い桜色の紅をさした唇はふっくらとして愛らしい。
思わず見惚れる容姿をしているのだが、見た目が幼い。
年齢詐称を疑うほどに。
「まるで、少女のような方ですわね」
「本当に」
「茶仙局さまに似ていらっしゃるのかしら?」
「どうかしら?茶仙局さまは三大美女の一人に数えられるほどの美貌の方ですし……」
「お顔の幼さについては話題になったことはありませんわね」
「そうですわね」
ヒソヒソと女たちは尚侍を評する。
中には「美しいのに勿体ない」という声も聞こえてくる。これは「綺麗だが、それは少女の美しさ。大人の女の色香もなければ艶もない」という皮肉がこめられている。
尚侍は女官たちに遠巻きに眺められながら、優雅な足取りで先に進む。
聴こえているだろうに尚侍はどこ吹く風だ。
そうして、尚侍は飛香舎にたどり着いた。
「藤壺尚侍さま、お待ち申し上げておりました」
飛香舎の出入り口まで来たところで、一人の女官が出迎えた。
出迎えたのは、尚侍付きの女官である。
「よろしくお願いいたします」
尚侍は深く頭を下げた。
女官も深々と頭を垂れる。
「こちらこそ、どうぞよしなに願います」
「はい」
女官の言葉に尚侍は笑みを浮かべた。
その笑顔を見た女官は、思わず息を呑む。
可憐な容姿に見合わぬ大人びた笑みだった。
後宮は荒れるかもしれない。
新尚侍の姿を見たとき、寵妃ではなく、後宮のマスコット的存在か、はたまた愛玩対象になるのではないか、と誰もが思った。そうとしか思えなかった。
だが、その考えは間違っていた。
新尚侍は後宮の勢力図を一変させる存在になるであろう。
そう、予感させた。
飛香舎の主である尚侍は、多くの女房や女官が行き交う回廊をゆったりとした足取りで渡ってゆく。その足取りに迷いはない。
彼女たちの値踏みするような視線も気にならないのか、気付かない振りをしているのか。
尚侍は気にする様子もなく歩みを進める。
「あれが、藤壺尚侍?」
「なんというか……」
女たちが言葉を濁すのも無理はない。
尚侍は、確かに美しい。
長い黒髪に白い肌。
淡い桜色の紅をさした唇はふっくらとして愛らしい。
思わず見惚れる容姿をしているのだが、見た目が幼い。
年齢詐称を疑うほどに。
「まるで、少女のような方ですわね」
「本当に」
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「どうかしら?茶仙局さまは三大美女の一人に数えられるほどの美貌の方ですし……」
「お顔の幼さについては話題になったことはありませんわね」
「そうですわね」
ヒソヒソと女たちは尚侍を評する。
中には「美しいのに勿体ない」という声も聞こえてくる。これは「綺麗だが、それは少女の美しさ。大人の女の色香もなければ艶もない」という皮肉がこめられている。
尚侍は女官たちに遠巻きに眺められながら、優雅な足取りで先に進む。
聴こえているだろうに尚侍はどこ吹く風だ。
そうして、尚侍は飛香舎にたどり着いた。
「藤壺尚侍さま、お待ち申し上げておりました」
飛香舎の出入り口まで来たところで、一人の女官が出迎えた。
出迎えたのは、尚侍付きの女官である。
「よろしくお願いいたします」
尚侍は深く頭を下げた。
女官も深々と頭を垂れる。
「こちらこそ、どうぞよしなに願います」
「はい」
女官の言葉に尚侍は笑みを浮かべた。
その笑顔を見た女官は、思わず息を呑む。
可憐な容姿に見合わぬ大人びた笑みだった。
後宮は荒れるかもしれない。
新尚侍の姿を見たとき、寵妃ではなく、後宮のマスコット的存在か、はたまた愛玩対象になるのではないか、と誰もが思った。そうとしか思えなかった。
だが、その考えは間違っていた。
新尚侍は後宮の勢力図を一変させる存在になるであろう。
そう、予感させた。
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