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騎士団長の息子

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かつての王都は荒んでいた。
活気に溢れていた街並みはスラムと化している。

敗れた民になったせいか、それとも暴力化した後に襲った諦念か。

「上がアホだと国が亡ぶ典型だな」 

王を名乗った男は、この荒廃を見たのだろうか?
瓦礫が積まれ、ゴミが散乱している町を。再建するのに何年かかるか分からないというのに。悔い改めることをしない男だ。今も「何が悪かったのか」と嘆いているのだろうか?それとも我々に対する怨嗟か。帝国軍人はあの男エドワードは後悔していると言うが、到底信じられない。

戦争が終わった事を伝えに言った時の声がこだまする。


『何の真似だ!? 何故こんな真似をした!』

『僕を裏切るだけでは飽き足らず、帝国に祖国を売るとは!!!』
 

仇敵と言わんばかりに睨まれたが、言っている意味に心当たりがなかった。
裏切りならお前が先だ。
祖国を共和国に売り渡したのもお前だ。

言いたいことは山ほどあると言うのに何故か、言葉に出る事は無かった。

『王都民は受け入れましたよ、我々を』

それだけ告げると踵を返した自分の行動が信じられなかった。

今思うと怒りを通り越して、憐れみすら覚えるのだ。彼は何を恨めば良いのか分からず彷徨っていたのだろうから……
だがそんな彼には最早、何の力もない。いや仮に力があったとしても彼の望む世界が訪れることはない。
そう確信すると胸の奥底にある澱のような物が消えていった。


内部から食い散らかそうとする共和国の工作員はまだ此処にいる。
王都は数年後には中立の自治領が誕生する。帝国の肝いりだ。経済都市として発展する事は間違いない。共和国も更に動くはずだ。いや、もう動いているに違いない。
獲物が網にかかりやすいように誘導するのも旧王国人の務めだ。

地下に潜ったネズミどもをあぶりだしたら、あの男に見せにいくにも良いかもしれない。

  

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