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王妃3

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ガラガラガラ。

「王都の景色も見納めですね」

何故……この男が此処にいるのかしら?
そして、どうして同じ馬車に乗っているのかしら?
ありえない自体に現実逃避しそうだわ。

「……宰相。何故、貴男までいるのです?」

「おや、水臭い事を仰る。一人だけ離反しようとは酷いお人だ。一言私に声をかけてくださっても宜しいというのに。何も言わずに立ち去るのですから最低限の準備しか出来ませんでしたよ」

「……私のなすべきことは全て終えました。宰相にどうこう言われる筋合いはないと思いますが……」

を頂点として、共に手を携えて壊れかけた国を支えた仲ではありませんか」

「御子息は宜しいのですか?」

「御安心を。息子達は辺境に避難させております。王都の屋敷にいるのは状況を理解していない者達だけですから」

「その中に貴男の奥方もいらっしゃるでしょう。宜しいの?」

「良いも悪いも、妻は田舎嫌いですからね。王都を出ていくという考えが思いつかないのですよ。生粋の中央貴族ですからね」

奥方との仲が宜しくないという話は聞いていたけれど……まさか置き去りにするとは思わなかった。
まぁ、国王に三下り半を叩きつけて一人だけ荒れ狂うであろう王都を脱出している私がいう事では無いわね。

「それに、妻は今、に夢中ですからね。売り出し中の若手俳優なので余計に王都から出ませんよ」

貴族の結婚は「義務」と割り切っている夫婦は意外に多い。後継者を産めば寝室は別という話も珍しくはない。もっとも、は中央貴族の常識。辺境は逆に「義務」の中から信頼と愛情を育む努力を欠かさない。確か、宰相は幼少期に辺境で暮らしていたと聞いた事があるわ。そこら辺の認識が溝を生んでいるのかもしれないわね。

「私も貴男も伴侶には恵まれませんわね」 

、に恵まれない者同士ですよ」

確かにその通りだと不謹慎にも笑ってしまいました。彼の場合、次世代の上司エドワード王子にも恵まれていませんから余計に笑えます。
ひとしきり笑い終わると。

「陛下がエドワード殿下を最北端の修道院に送らなかった事は意外でした」

「幽閉はだと仰っていましたわ」

「ああ!修道院の本当の意味を陛下は御存知なかった、という事でしたか。それなら納得です。教えて差し上げなかったのですか?」

「聞かれませんでしたので……」 

「出入りが厳しいという事は即ち匿うには持ってこいの場所というのに……あの修道院が国に居られなくなった人間が隠れ住まうには最高の環境だ。そのことを貴女は誰よりもよく理解しているはずだ。そうでしょう?殿

随分、懐かしい名前が出てきたものです。
宰相は侮れない人ですね。  


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