上 下
52 / 70

王子1

しおりを挟む
庶民の生活は自由で刺激に満ち溢れている。フットワークが軽い。特に親しくなった三人。

弁護士のトムは苦学生だった。

「弱い人を守るために法曹界に入ったんだ。俺の家は母子家庭でな。父親が浮気性の博打好きで最悪だった。子供の頃に蒸発してそれっきりだ。母は何も言わないが恐らく新しい女を連れて出奔したんだろう。養育費もない状態で母は酷く苦労して俺を育ててくれた。俺が弁護士を目指したのは母に親孝行したかったのもあるが、俺のような存在を減らしたいと思ったからだ。養育費も慰謝料も踏み倒して髭る夫や父親が世間には多すぎる!それもこれも法律の穴があるせいだ!」

スーツ姿が板についているトムだが、幼少に頃からお金に苦労していたらしく、金勘定にはシビアだった。
最近では労働組合の拡大を目指しているようだ。 


画家のジンはトムとは正反対のタイプで、楽観的だ。

「トムは真面目過ぎ。子供なんて親が居なくたって生きられるよ。まあ、『金さえあれば』というのが前提だけどね」

そう言ってはトムを怒らす。
ジンは比較的裕福な家庭で育ったようで、粗野に見えてちょっとした立ち居振る舞いが上品だった。自分の事を多く語らない処もミステリアスで女性にモテていた。もっとも彼の場合、妖艶な美貌と退廃的な雰囲気が恐ろしく魅力的だったので女性だけでなく男性からもいい寄られていた。
 

「家には帰らなくて大丈夫なのかい?」

気になって聞いた事がある。
何だかんだ言って家族だ。ジンの家族も心配しているんじゃないか、と思ったからだ。

「え~~~。もう何年も帰ってないよ。あっちじゃあ、僕が野垂れ死にしたとでも思ってんじゃないかな?」

「連絡してないのか?」

「家出同然で出てきたから……う~~~ん。かれこれ七年経つのか」

「そんなに連絡していないのか!?親が心配してるだろう?」

「それなら大丈夫!兄弟も多いし、父親も新しい奥さんとラブラブだから僕の事なんて気にも止めてないよ!」

「兄弟が探しているんじゃないのか?」

「あはははは!エドは面白い子だね!同母兄弟なら心配するかもしれないけど、皆、腹違いの兄弟達だ。心配なんてする訳ないよ!逆に財産を受け継ぐ人間が一人減ってラッキーとでも思ってんじゃない?」

ゲラゲラと嗤うジンに絶句してしまう。家庭環境は思っていた以上に酷いものだった。彼が好んで描く「聖母子」は全て慈愛に満ち溢れている。今、ニヤニヤと嫌な嗤い顔をするジンが描いたとは到底思えない優しい画だ。彼の願望が描く絵なのかもしれない。

「僕はね、トムみたいに熱くなれないんだよね」

どこか斜めに世間を見ているのも彼の家庭環境が大きく影響しているのかもしれない。 


新聞記者のアンは紅一点の女性だ。
職業婦人の彼女は頭の回転が速くしっかり者だ。
二人の男達と違って極々普通の家庭環境に育った女性で、家は医者の家系。兄が一人いて家を継いでいるためアンはのびのびと育てられたらしい。最初は医者の道を志していたらしく、医学の心得があった。寧ろ、そこら辺の医者よりも詳しいかもしれない。これでどうして新聞記者になったのか謎だ。

「昔、色々あってね」

彼女も多くを語らない。
ただ彼女には「女友達」がいなかった。もしかしたら、そこら辺が理由なのかもしれない。
     
しおりを挟む
感想 194

あなたにおすすめの小説

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

結婚の約束を信じて待っていたのに、帰ってきた幼馴染は私ではなく義妹を選びました。

田太 優
恋愛
将来を約束した幼馴染と離れ離れになったけど、私はずっと信じていた。 やがて幼馴染が帰ってきて、信じられない姿を見た。 幼馴染に抱きつく義妹。 幼馴染は私ではなく義妹と結婚すると告げた。 信じて待っていた私は裏切られた。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

処理中です...