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王妃
しおりを挟むアリス・ブロワの異母兄。
ランカー男爵家の長男、トーマス・ランカー。
彼の存在は元々知っていました。
品行方正と名高かったトーマスは、父君が亡くなり、爵位を継いでから変わってしまった。残された財産を湯水の如く使い、最期は、娼婦に性病を移されて亡くなっています。表向きはただの「病死」とされていますが……。
トーマスの死後、ランカー男爵家には不幸が相次いだせいで、後継者は今も決まっていない有り様です。本当ならアリス・ブロワが婿を取りランカー男爵家を継ぐのが一番良かったのですが、人生とはままならないもの。かといって、先王以前から信頼厚い忠臣であった男爵家を取り潰す訳にもいきません。その理由もありませんし、何よりも、ランカー男爵家は領地を持たない代わりに代々政治家の家系で、大臣を何人も輩出してきた家柄。爵位は低いものの、一族の者が極めて優秀な者達が多かったのです。
先代が貿易商を始めた時は驚いたものだわ。
もっとも、そちらにも才能があったようでライバルたちを蹴散らしていたのも有名でした。恨みも相当買っていたようです。
ランカー男爵家が落ちぶれていく中で誰も手を差し伸べる者がいなかったのも、先代男爵であるリカルド・ランカーの悪行が響いた、と噂されるほどでした。
リカルド・ランカー。
厳格なチャーリー・ランカーと違って、リカルドは享楽的な男だったと記憶しています。
華やかな容姿で若い頃から社交界でも中心的人物でもあり、常に周りに美しい女性を侍らせておりました。
そんな男が結婚した時は随分と騒がれたものだわ。
相手は、クリスティーナ・オックス伯爵令嬢。
男爵家の嫡男と伯爵家の令嬢。
一見、身分違いともとれる結婚。
けれど、両家にとってはこれ以上ない良縁でもあったのです。
オックス伯爵家は代々近衛騎士団の団長を配してきた一族。
政治のランカー男爵家と武門のオックス伯爵家。
これほど良い縁組は早々ないものです。
両家共にこれまで以上に王家を、国を支えてくれると思われた結婚。
例え、リカルド・ランカーが政界に入る事がなかったとしても問題ではありません。
リカルドとクリスティーナとの間に生まれる子供が政治家になればいいだけなのですから。
両家に、王家に、王国に、祝福された結婚。
それが当事者同士が望んだものでない事は一目瞭然でした。
いいえ、少し違いますね。少なくともクリスティーナは望んで嫁いでいったのですから。才能豊かな美貌のリカルドは若い令嬢たちの憧れの的でもありました。
クリスティーナも若い令嬢の例に漏れず、リカルドに恋焦がれていたのです。
あのリカルド・ランカーと結婚して「平凡で暖かな家庭」など築けるはずもなく、クリスティーナは夫の度重なる浮気に悩み続け、体を壊していったと噂で知りました。
当事者にとっては不幸な結婚。
それでも、愛する男性と結婚しただけクリスティーナはマシでしょう。
世の中、愛のない政略結婚など溢れかえっているのですから。
王妃である私もその一人。
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