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王子1
しおりを挟む「無理!もう無理よ!!!」
「アリス様いけません!」
「こないでよ!あっちいって!!!」
またか……。
困った事だ。
ガッシャ――ン!!!!
女性たちの言い争いの後は決まってなにかが壊れた音がする。
今日はなんだ?
花瓶か?
カップか?
皿か?
バタン!
静かになると、教育係が部屋から出てくるのはお決まりのパターンだ。
「エドワード殿下……」
「シルバー夫人。妃教育は始まったばかりだ。急ぐ必要はないだろう」
このセリフも何回言ったことだろう。
もう数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいに言った。
「お言葉を返すようで恐縮ですが、妃教育が始まって、既に半年が経過しております。その間にアリス様が習得したものは何一つありません。歩き方、会釈の仕方、話し方、どれをとっても満足のいく出来ではありません!」
「分かっている」
「分かっていらっしゃるのなら殿下からも厳しく仰ってください!アリス様は高位貴族の振る舞いもマトモにできないのですよ!」
「だが…夫人、アリスは今まで下位貴族だったのだ。」
「殿下、現実を御覧になってください。アリス様が男爵令嬢であったのは五年前です。よろしいですか、五年間は公爵令嬢として過ごしているのです。その間に高位貴族の教育を済ましておくのが常識というものです」
「……夫人」
「申し訳ありません。少々興奮してしまい、殿下に失礼なことを……」
「いや、無理を言っているのはこちらだ」
「今日はこれで失礼いたします」
「あ、ああ。ご苦労であった」
足音を出すことなく静かに去っていくシルバー夫人を黙って見送るしかなかった。夫人の言いたいことは理解している。
最初の婚約者であったキャサリン・ブロワ公爵令嬢との婚約を白紙にして、新たに婚約したアリス・ブロワ。
彼女はキャサリンの義理の妹だ。
ブロワ公爵の再婚相手の連れ子。
そんな彼女と学園で出会い、恋に落ちてしまった。
アリスと結婚したくて、卒業パーティーで大勢の観衆の前で婚約破棄をキャサリンに申し付けた。父上からは叱り飛ばされ二ヶ月の謹慎を申し渡されたが、それでアリスと結婚できるのなら安いものだった。
どれほど父上が僕に対して怒り狂っても、結局、僕を排除する事は出来ない。
僕は父上の唯一の王子なのだから。
正妃である王妃殿下には子供がいない。
これから先も望めないだろう。
僕の母は側妃だ。
血筋の事を考慮して、王弟ブロワ公爵の娘であるキャサリンと幼くして婚約した。
全ては王太子位を確実にするためだった。
それを危うくすると分かっていてもアリスと一緒になりたい。
僕の初めての恋、そして生涯唯一の恋だ。
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