【完結】政略結婚だからこそ、婚約者を大切にするのは当然でしょう?

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
22 / 27

22.招かれざる客 その二(店長side)

しおりを挟む
 迷惑男はそれから間もなくして店を去った。
 二度と来ることはないだろうさ。

 結局、あの男は最後まで謝罪を口にしなかった。

 腐った性根は一生治りそうもないね。

 どれだけ愛されようと。
 どれだけ大切にされようと。

 あの男の薄汚い本性は、いつまでも消えやしないのさ。
 結局、あの男は最後まで謝罪を口にしなかった。
 腐った性根は一生治りそうもないね。
 どれだけ愛されようと。
 どれだけ大切にされようと。
 あの男の薄汚い本性は、いつまでも消えやしないのさ。

「やれやれ……悪いが塩を撒いとくれ」
「はい!ただいま!」

 あたしゃあ、元従業員を呼びつけて塩を撒くよう命じた。
 店の前にね。
 あの男が残した汚れは綺麗さっぱり流さなきゃね。






 塩を撒いたのが良かったのか、翌日、久しぶりにお嬢様から手紙が来た。
 どうやら他国に支店をだすらしい。
 若旦那様と一緒に行くんだと。

 お土産をたくさん送るから、楽しみにしててと書いてあった。

 相変わらずだなぁと嬉しくなって、すぐに返事を書いたさ。
 勿論、あの男のことは書かなかった。
 過去の遺物なんて、知る必要はない。気に止める価値すらない。
 お嬢様が幸せになるならそれが一番さ。

 あたしゃ、嘘は言っちゃあいない。
 お嬢様親子が店を閉めたのは本当だ。
 お二人が街を離れたのも本当のことだ。
 誹謗中傷の嵐だったのは本当だ。
 この店の店長があたしだってことも本当だ。
 ただし……“雇われ店長”だってことを除けば、だがね。
 まあ、聞かれなかったからね。仕方ないさ。こっちだって言う必要ないことだ。あの男はもうこの店に関係のない奴だからね。親切に全部本当のことを言う必要はないってことさ。


 
 
 お嬢様は心を病みかけていた。
 それを救ったのが若旦那様だ。

 あの男の友人だから警戒していたが、良い人だった。
 あのクソッたれと大学の専攻が同じで、よくつるんでいた。
 お嬢様もクソッたれに紹介されて顔なじみだったらしい。妊娠したと聞き、心配して様子を見にきてくれた程だ。

『僕も彼と同じ貧乏貴族なんです』
『三男坊だから食い扶持も自分で稼がないと』
『万年次席です。彼にはかなわなくて』

 今思い出しても良い人だ。
 気さくで、明るくて。
 お嬢様もすぐに心を開いたさ。

 同じ貧乏貴族でもクソッたれ野郎とは雲泥の違いだ。

 本人は平民同然の暮らしだと言っていたが、育ちの良さってもんは出てくるもんさ。
 小難しいマナーとかじゃない。
 考え方とか、物の見方とか。
 そういうもんは、やっぱり育ちが出るもんだ。

 素直なんだ。
 自分が悪かったら直ぐに謝るところとか。
 少し気の弱いところはあるが優しい。
 裏表のない親切。
 自分より優れた人や恵まれた人を妬んだり、僻んだりもしない。

 ……クソッたれ野郎の友人とは思えない。良い人だ。

 ああいう人だからね。
 お嬢様とその子供を大事にしてくれる。
 実の子供と分け隔てなく可愛がってくれる。


 お嬢様の幸せを願うなら、あのクソッたれ野郎との別れは大正解だったんだろうさ。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください

mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。 「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」 大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です! 男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。 どこに、捻じ込めると言うのですか! ※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。

ふまさ
恋愛
「クラリス。すまないが、今日も仕事を頼まれてくれないか?」  王立学園に入学して十ヶ月が経った放課後。生徒会室に向かう途中の廊下で、この国の王子であるイライジャが、並んで歩く婚約者のクラリスに言った。クラリスが、ですが、と困ったように呟く。 「やはり、生徒会長であるイライジャ殿下に与えられた仕事ですので、ご自分でなされたほうが、殿下のためにもよろしいのではないでしょうか……?」 「そうしたいのはやまやまだが、側妃候補のご令嬢たちと、お茶をする約束をしてしまったんだ。ぼくが王となったときのためにも、愛想はよくしていた方がいいだろう?」 「……それはそうかもしれませんが」 「クラリス。まだぐだぐだ言うようなら──わかっているよね?」  イライジャは足を止め、クラリスに一歩、近付いた。 「王子であるぼくの命に逆らうのなら、きみとの婚約は、破棄させてもらうよ?」  こう言えば、イライジャを愛しているクラリスが、どんな頼み事も断れないとわかったうえでの脅しだった。現に、クラリスは焦ったように顔をあげた。 「そ、それは嫌です!」 「うん。なら、お願いするね。大丈夫。ぼくが一番に愛しているのは、きみだから。それだけは信じて」  イライジャが抱き締めると、クラリスは、はい、と嬉しそうに笑った。  ──ああ。何て扱いやすく、便利な婚約者なのだろう。  イライジャはそっと、口角をあげた。  だが。  そんなイライジャの学園生活は、それから僅か二ヶ月後に、幕を閉じることになる。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

物語は続かない

mios
恋愛
「ローズ・マリーゴールド公爵令嬢!貴様との婚約を破棄する!」 懐かしい名前を聞きました。彼が叫ぶその名を持つ人物は既に別の名前を持っています。 役者が欠けているのに、物語が続くなんてことがあるのでしょうか?

処理中です...