17 / 27
17.望まぬ結婚 その二(ソフィアside)
しおりを挟む
「僕にはね、恋人がいたんだ。貴族じゃない。平民の女性だ。大学を卒業したら彼女と結婚する筈だった。彼女の家に婿入りする約束をしていたんだ。そこそこ大きな商売をしていてね。平民の中では裕福な家だったんだよ」
「……」
「大学は彼女の家から通った。貴族と違って平民の間では婚約契約書なんてものは交わさない。口約束で十分だからね」
「……」
「でも、僕は公爵家に入ることが決定事項だった。だから彼女とも別れたよ」
「……」
言葉を発することができませんでした。
私は黙ってラヴィル様の話を聞くことしかできません。
「君もこの結婚には不本意なのだろう?聞かずとも分かる。婚約以降まったく交流を持とうとしない。こちらも意地になっていたとはいえ、文句の一つも言ってこない。これは王家が決めた結婚だ。婚約者の男に蔑ろにされたと、訴えたところで君に瑕疵はない。公爵家にも実家にもなんのアクションも起こさなかった。こちらが驚くくらいにね」
「……」
ラヴィル様の言う通りです。
私は、一度もラヴィル様に文句も不満も何も言いませんでした。
だって……何を言えばいいのか分からなかったのです。
手紙の返事一つ寄越さなかった婚約者にどう文句を言えば良いのでしょう?
ラヴィル様は公爵家なり実家なりに言えばいい、と仰いますが……
「お互いに理解しあう必要はない。愛し合う必要はない。と、こちらは判断させてもらった。おめでとう。君は見事に公爵家に不合格の烙印を押された。次期公爵夫人に相応しくない、とね。君の役目は公爵家の血を絶やさないために子供を儲けることだけだ。それ以上は望まないでくれ」
「……」
「ああ、社交なら気にする必要はない。僕達は数日したら公爵領に行く。王都に来ることもないから、安心するといい。君だってこうなると分かって僕と交流しなかったんだから、文句はないだろう?実家で何を聞かされたのかは知らないが、伯爵令嬢がいきなり公爵家の嫁となることは不可能だ。教育自体が違うからね。公爵家の作法を教えて欲しい、と言ってくるのを待っていたが、この二年まったく音沙汰なし。公爵閣下も驚いていたよ」
謝らなくては。
そんなつもりはなかった、と。
なのに声がでない。
声だけじゃない。体もだんだん熱く……
「漸く効いてきたか。さっき飲んだ果実酒はね、媚薬入りの果実酒なんだよ」
「び……やく……?」
「そう。君はこれから僕に抱かれるんだ。初夜だからね。夫婦の営みをしなければならないだろう?」
ああ、だから体が熱かったのですね。
ですが何故媚薬入りの果実酒なんかを?
「さて。仕事に取り掛かろうか」
伸ばされるラヴィル様の腕。
息苦しくなってきて、思考が定まらなくなってきました。
私は「やめて」と声をあげることもできないまま……ラヴィル様に組み敷かれてしまいました。
優しい労わりのない行為。
ただただ、子供を作るだけの作業。
痛いはずなのに。
苦しくて、辛いはずなのに。
媚薬のせいなのか、熱い体は快楽を得ることしかできませんでした。
視線が一度も合うことのなく。
ラヴィル様は、私でない、別の誰かの名前を何度も呼びました。
「……」
「大学は彼女の家から通った。貴族と違って平民の間では婚約契約書なんてものは交わさない。口約束で十分だからね」
「……」
「でも、僕は公爵家に入ることが決定事項だった。だから彼女とも別れたよ」
「……」
言葉を発することができませんでした。
私は黙ってラヴィル様の話を聞くことしかできません。
「君もこの結婚には不本意なのだろう?聞かずとも分かる。婚約以降まったく交流を持とうとしない。こちらも意地になっていたとはいえ、文句の一つも言ってこない。これは王家が決めた結婚だ。婚約者の男に蔑ろにされたと、訴えたところで君に瑕疵はない。公爵家にも実家にもなんのアクションも起こさなかった。こちらが驚くくらいにね」
「……」
ラヴィル様の言う通りです。
私は、一度もラヴィル様に文句も不満も何も言いませんでした。
だって……何を言えばいいのか分からなかったのです。
手紙の返事一つ寄越さなかった婚約者にどう文句を言えば良いのでしょう?
ラヴィル様は公爵家なり実家なりに言えばいい、と仰いますが……
「お互いに理解しあう必要はない。愛し合う必要はない。と、こちらは判断させてもらった。おめでとう。君は見事に公爵家に不合格の烙印を押された。次期公爵夫人に相応しくない、とね。君の役目は公爵家の血を絶やさないために子供を儲けることだけだ。それ以上は望まないでくれ」
「……」
「ああ、社交なら気にする必要はない。僕達は数日したら公爵領に行く。王都に来ることもないから、安心するといい。君だってこうなると分かって僕と交流しなかったんだから、文句はないだろう?実家で何を聞かされたのかは知らないが、伯爵令嬢がいきなり公爵家の嫁となることは不可能だ。教育自体が違うからね。公爵家の作法を教えて欲しい、と言ってくるのを待っていたが、この二年まったく音沙汰なし。公爵閣下も驚いていたよ」
謝らなくては。
そんなつもりはなかった、と。
なのに声がでない。
声だけじゃない。体もだんだん熱く……
「漸く効いてきたか。さっき飲んだ果実酒はね、媚薬入りの果実酒なんだよ」
「び……やく……?」
「そう。君はこれから僕に抱かれるんだ。初夜だからね。夫婦の営みをしなければならないだろう?」
ああ、だから体が熱かったのですね。
ですが何故媚薬入りの果実酒なんかを?
「さて。仕事に取り掛かろうか」
伸ばされるラヴィル様の腕。
息苦しくなってきて、思考が定まらなくなってきました。
私は「やめて」と声をあげることもできないまま……ラヴィル様に組み敷かれてしまいました。
優しい労わりのない行為。
ただただ、子供を作るだけの作業。
痛いはずなのに。
苦しくて、辛いはずなのに。
媚薬のせいなのか、熱い体は快楽を得ることしかできませんでした。
視線が一度も合うことのなく。
ラヴィル様は、私でない、別の誰かの名前を何度も呼びました。
777
お気に入りに追加
1,281
あなたにおすすめの小説


残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください
mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。
「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」
大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です!
男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。
どこに、捻じ込めると言うのですか!
※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。

もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。
ふまさ
恋愛
「クラリス。すまないが、今日も仕事を頼まれてくれないか?」
王立学園に入学して十ヶ月が経った放課後。生徒会室に向かう途中の廊下で、この国の王子であるイライジャが、並んで歩く婚約者のクラリスに言った。クラリスが、ですが、と困ったように呟く。
「やはり、生徒会長であるイライジャ殿下に与えられた仕事ですので、ご自分でなされたほうが、殿下のためにもよろしいのではないでしょうか……?」
「そうしたいのはやまやまだが、側妃候補のご令嬢たちと、お茶をする約束をしてしまったんだ。ぼくが王となったときのためにも、愛想はよくしていた方がいいだろう?」
「……それはそうかもしれませんが」
「クラリス。まだぐだぐだ言うようなら──わかっているよね?」
イライジャは足を止め、クラリスに一歩、近付いた。
「王子であるぼくの命に逆らうのなら、きみとの婚約は、破棄させてもらうよ?」
こう言えば、イライジャを愛しているクラリスが、どんな頼み事も断れないとわかったうえでの脅しだった。現に、クラリスは焦ったように顔をあげた。
「そ、それは嫌です!」
「うん。なら、お願いするね。大丈夫。ぼくが一番に愛しているのは、きみだから。それだけは信じて」
イライジャが抱き締めると、クラリスは、はい、と嬉しそうに笑った。
──ああ。何て扱いやすく、便利な婚約者なのだろう。
イライジャはそっと、口角をあげた。
だが。
そんなイライジャの学園生活は、それから僅か二ヶ月後に、幕を閉じることになる。


次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

見えるものしか見ないから
mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。
第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

物語は続かない
mios
恋愛
「ローズ・マリーゴールド公爵令嬢!貴様との婚約を破棄する!」
懐かしい名前を聞きました。彼が叫ぶその名を持つ人物は既に別の名前を持っています。
役者が欠けているのに、物語が続くなんてことがあるのでしょうか?

どうぞ、(誰にも真似できない)その愛を貫いてくださいませ(笑)
mios
恋愛
公爵令嬢の婚約者を捨て、男爵令嬢と大恋愛の末に結婚した第一王子。公爵家の後ろ盾がなくなって、王太子の地位を降ろされた第一王子。
念願の子に恵まれて、産まれた直後に齎された幼い王子様の訃報。
国中が悲しみに包まれた時、侯爵家に一報が。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる