【完結】政略結婚だからこそ、婚約者を大切にするのは当然でしょう?

つくも茄子

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15.困惑(ソフィアside)

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 婚約して三年目。
 私とアルスラーン様の婚約はあっけなく終わりました。
 理由は、貴族同士の婚約の見直しです。
 王家主導で行われると発表されました。
 両親はその発表に一喜一憂しておりましたが、私はいつものように大人しく義務に従うだけです。

 私の結婚相手を決めるのが親から王家に代わっただけのこと。
 大した違いはございません。

 アルスラーン様が侯爵令嬢と結婚したというニュースが飛び込んできました。


「セルジューク辺境伯の子倅に侯爵令嬢だと!?」
「あのが、侯爵令嬢を妻に娶るとは……」
「なんてことでしょう!しかもランドルト侯爵家の令嬢だなんて!」

 両親と兄の怒りは相当なものでした。
 それと同時に、家族がアルスラーン様を“異国の血を引く者”として見下していることを知りました。
 これには驚くばかり。
 中央貴族は、他国の血を入れることを毛嫌いする人が多いことは知っていました。

 現に義兄もその一人。
 あからさまな差別発言はしませんが、異国の血を受け入れることはできない様子でした。
 私がアルスラーン様との婚約が決まった時も随分と同情されたものです。
「あのと婚約など、災難だな」と。
 ニヤニヤと嫌な笑い付きで。
 お姉様が諫めてくださったのですが、その笑いはすぐには消えませんでした。
 義兄とはいえ、嫌な人だと心の中で思ったものです。

 でも、まさか両親と兄までもが、そうだとは夢にも思いませんでした。
 意外な一面にただただ驚くばかり。



 私の次のお相手。
 それが決まるのに少し時間が掛かりました。
 アルスラーン様の家との協議があるとかで。
 詳しいことは分かりませんが、両親や兄は最近とても機嫌がいいので、きっと良い結果だったのでしょう。

 数ヶ月後、漸く、私に相手が決まったと知らされました。
 相手はラヴィル・レーゲンブルク公爵子息とのこと。
 それも跡取りだというではありませんか。

 伯爵家の娘でしかない私が?
 次期公爵の妻に?

「ソフィア、お前はなんと幸運な娘なのだろう」と両親と兄は大喜び。

「私に公爵夫人が務まるでしょうか?」
「心配する必要はない。お前は黙って夫に従っていればいい」
「そうですよ、ソフィア。貴女は公爵夫人になることだけを考えればいいんです。余計なことは考えなくていいのですよ」
「……はい。わかりました……」

 そうしてレーゲンブルク公爵家との縁談が決まりました。
 一度目と同じ。私の意志など何処にもありません。
 しかも今回は王家主導です。
 格上過ぎる相手に嫁ぐことに、私は不安を隠せませんでした。

「安心しろ、ソフィア」
「お兄様?」
「レーゲンブルク公爵子息は嫡出ではない。お前が無碍に扱われることはないだろうよ」

 嫡出ではない……とは。
 一体どういう意味なのでしょう。

「ラヴィル様は跡取りだとお聞きしていますが?」
「そうだ。レーゲンブルク公爵家には嫡出の双子のご子息がいた」
「双子ですか……」
「そうだ。だが、この双子が貴族に相応しくない言動故に廃嫡となった。ラヴィル殿は公爵閣下の庶子だ。母親が子爵家出身だからな。血筋的に少々落ちるが、お前との婚姻にはなんの問題もない」
「そうですか……」

 私はお兄様の言葉をそのまま受け入れました。
 貴族社会は血筋がものをいいます。
 もしかすると私との婚姻もそのためなのかもしれません。

 こうして決まった婚約。
 私にとっては二度目の婚約です。
 最初の時と同様に相手に合わせていけば大丈夫でしょう。それが、貴族の娘の宿命なのですから。


 ――――連絡がありません。

 ラヴィル様から私への連絡は、三ヶ月経ちましたが一度もありません。
 手紙も、贈り物もありません。

「ラヴィル様はお忙しいのかしら?」
「そうかもしれないな。だが、心配する必要はないだろう」とお父様は言いました。

 確かに、レーゲンブルク公爵領は遠いです。
 伯爵領から離れています。
 先触れを出してもすぐには来られないでしょうし、手紙だって遅れてしまうでしょう。

 けれど……半年経っても一年経ってもラヴィル様からの音沙汰はありません。

 アルスラーン様の時とは真逆です。
 これはどういうことでしょう。
 分かりません。

 どうすればいいのかしら?

 こういう場合、どう行動すれば良いのか分からなかった。

 淑女から連絡するなど、はしたないにも程があります。
 普通は、男性の方からお手紙を出すのが礼儀のはず。
 アルバート様もそうでした。
 アルスラーン様の時も彼から最初の手紙を頂きました。

 こうして、一度も交流のないまま月日は流れていってしまい……

 気が付けば、結婚式の日取りも決まっていたのです。


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