後宮の右筆妃

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
77 / 82
第二章

76.包青side

しおりを挟む
鄧采女元賢妃が亡くなりました」

「一ヶ月……か。良く持った方じゃねぇか?……遺体をどうするかだな。鄧家に使いはだしたのか?」

「はい。鄧家では既に離籍した人間と言う事で知らぬ存ぜぬです。遺体の引き取りはしないでしょう」

「まぁ……そうだろうな。下手に情を見せちまえば自分らも連座だ。鄧采女元賢妃と『他人ん』となる事で首の皮一枚でつながっている状態だ」

「後宮内で起こった事と、主犯が飽く迄も乳母ですからね。郭丞相も動いたようですし……」

「仕方ねぇ。鄧采女元賢妃の遺体は荼毘にして葬る他ねぇな」

「直ぐに準備にとりかかります」

「頼む」

 
 その後、鄧采女元賢妃は後宮の隅に葬られた。
 罪人故に墓碑すらなかった。

 
 それにしても――


「誰も来ねぇな」

「罪人になった最下級の妃の墓になど誰もきませんよ」

「一応、死んだことは知らせたんだろ?」

「えぇ……」

「貴妃辺りは来ると思ったんだがな。義姉妹だろ?」

「義姉妹といっても法的には全くの赤の他人です。あんなものは自分の派閥を拡大するためのものでしかないんですよ。後宮では特にそれが顕著に現れています」
 
「あぁ~……」
 
「それと、元賢妃はどうやら他の妃達から遠巻きにされていたようですしね」
 
「意外と評判悪かったな」
 
「はい。ですが、納得できるところもあります。他の妃と交友を深めないばかりか下に見ていたとは……。そればかりか、己が何も言わずとも周りが察して先回りして行動するのが当たり前、という思考をしていたらしいのです。まったく、思い上がりも甚だしい限りですよ」
 
「人は見かけによらねぇよな……」
 
「妃達の話では、元賢妃は損得勘定が大変激しかったようですね。女人はよく見ているものだと感心してしまいましたよ。賢妃の野心を見抜いていたようです。上っ面を取り繕っていてもちょっとした場面で本性が見えるようで、四夫人と他の妃とでは態度が微妙に違っていたとか……」
 
「うわぁ……」

 大人しいとしか思わなかった元賢妃の意外過ぎる素顔。
 後宮の女は碌なのがいねぇな。

「それにしても……宜しかったのですか?」

「なにがだ?」

「あの乳母の背後にいたであろう人物を探り当てなくて」

「……なんだ、気が付いていたのか」

「はい。確証はありませんが」

 さすがだな。
 こいつは人の感情の動きには聡いし機微にも鋭い。

「探した所で意味がない。証拠はないからな」
 
「はい……」

 処刑した乳母は元賢妃のためにと暴走していた。その乳母を放置していたのは元賢妃だ。いや、「暴走」させられたと言うべきだろう。

 実家の権勢と後宮での権力を思うが儘に振る舞う素直な徳妃とは違い、貴妃は分かりにくい。
 
 丞相自慢の美貌の娘。
 皇帝の寵愛を受け、子を数人産んだにも拘わらず未だに立后できていない。
 郭家としても予想外だった筈だ。そこにきて、淑妃の懐妊。計算が狂ったと思ったに違いない。貴妃が乳母を唆して誘導したのか。そして丞相がどこまで絡んでいるのかが問題だ。


 

 

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

処理中です...