後宮の右筆妃

つくも茄子

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第二章

73.徳妃side

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 賢妃は生来の気質のせいか権力に興味はないように思えた。その分、乳母が上昇志向で権謀術数を駆使するタイプであることは誰の目にも明らかだったし、彼女は自分の権勢のために賢妃が産んだ皇女さえ利用していた。自分の娘を皇女の乳母に据える程に。賢妃の宮殿の実質的主は、あの乳母だった。これで賢妃が産んだのが皇子であったなら更に権勢を極めようとしていたことだろう。

「賢妃様は大丈夫かしら?」
 
「さぁ‥…?安心はできないかもしれませんわね。何しろ皇帝の御子を身籠った淑妃様に害をなそうとしたのは彼女の乳母なわけですから。他の妃達への牽制のために何らかの重い処分が下されるのは間違いありませんでしょう」

「……仕方のない事なのでしょうね」

「えぇ……それにしても、賢妃の乳母は大胆で愚かだわ。寄りのもよって淑妃様に手を出すなんて……。まるで……」

 誰かに操られているかのよう――


「どうなさいました、徳妃様?」

 つい、考え込んでしまった私に貴妃が声をかけた。

「……いいえ、なにも」

 私が笑顔を取り繕うと貴妃もそれ以上は追求せずにお茶を一口飲んだ。

 貴妃は淑妃と“義姉妹の契り”を結びたいという噂を聞いた。それ自体、この後宮では特に珍しい事じゃない。現に、私や貴妃には何人もの“義妹”関係の妃がいる。ここ数年は貴妃のお気に入りの“義妹”は賢妃だった。

 郭家の娘であり、二人の皇子の母である貴妃を皇帝陛下はいつも気遣っている。それを腹ただしいと感じる事は常にあった。
 この後宮で頭一つ分抜きんでている貴妃には“義妹”の存在が多い。貴妃の傘下に入り後宮内での立場を確立したい女子もまた大勢いる。彼女は己の懐にいれた者には文字通り保護者の役割を果たしているから、是非とも“義姉妹”になりたいと望まれるのだろう。

 妃同士の仲裁まで引き受けているのだから、それも当然といえば当然のことなのかもしれない。

 寵愛の薄い妃の元に行くように陛下に勧めていると知った時は、なんと愚かな事と嘲笑っていた事もあった。けれど、貴妃はそれによって他の妃の支持を集めたのも事実だった。


 後宮に入ったからには、皆、一度は皇后を目指すもの。
 私も両親や一族から皇后に、引いては国母にと望まれている。それは、貴妃も同じはず。なのに……何故か時々、彼女の望みは別の処に有る様な気がしてならない。

 後宮の花は只単に主に愛でられるだけの存在ではない。

 どれほど可憐な花でも毒を持っているのだから――

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