後宮の右筆妃

つくも茄子

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第一章

65.真相は闇の中2

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「ねぇ、青。何これ? “帰らずの宮女事件”って何?」

「書いてある通りだ。女官が後宮から消えてそのまま帰ってこないことだ。要は失踪だな」

「え?」

「因みに遺体は見つかってないぞ」

「え……じゃあこれ……」

「迷宮入りの事件だ」

「それって今回の女官殺しと同じ……」

「遺体があるか無いかの違いはあるがな」

「この宦官の辞表って……作為的なものを感じるんだけど……そもそも、部屋に個人の荷物が無くなったって書いてあるけど、こういう調査は最初に調べるものじゃないの? 役人の証言だってこれ無視したの?」
 
「何が言いたいのかはだいたい分かる。まあ、書いてある内容自体も怪しいしな……」

「嘘だって事?」

「事件があったのは本当だ。書いてある内容も……嘘は記載されていないだろう。ただ、肝心の事は何も書かれていないだけさ。書いた奴はまだ誠実な方だろう」

「誠実?」

「ああ、これ以上書けば自分が危ない事を理解している」

「ねぇ、この捜査って……途中で打ち切られたってこと?」

「……恐らく、上から圧力がかかったんだろう。証言した役人は事件性なしの結果になった翌日には異動の内示がでている。地方のな」

「それって……左遷されたってこと?」

「表向きは栄転だ」

「都落ちしてるのに?」

「役人になりたての若造が知事として州に赴いたんだ。地位からしたら出世してるぜ。ま、何らかの思惑があっての事なのか、それとも自分の身が危ないと思った若造が誰かと取引して都を去ったか……答えは本人しか分かんねーな」

「人骨は本当に宦官本人のものだったの?」

「さあな。宦官の衣服を身に纏った人骨が発見されただけだ。身元を証明する物は何もなかった。ただ、当時、行方が分からなくなった宦官がそいつだけだったから本人に間違いなしと判断したんだとさ」

「いい加減ね」

「……皆が口を噤んだんだ。こんな場所後宮にいるんだ。深入りすれば我が身が危ない。それは今も同じだがな」

 青は珍しく言葉を濁しながら難しい表情になった。

「それって……」

「今回の事件の犯人は元宝林で一応の決着がついた。これ以上深入りすると本当にどうなるか分からねぇんだよ。それに、この事はも承知済みだ。下手に手を出すなって事だよ。引き際を間違えれば、オレ達の首も危うくなる。いっとくがにな。オレも部下をトカゲの尻尾切りのような真似でなくしたくねぇ。お前も絶対に探るなよ。陛下に聞くのもなしだ」
 
 青は私を真っ直ぐ見つめながら念押しするように強く言った。
 私がこの件を調べる事で青達のクビまで物理で飛びかねないということだ。私自身の命だって危うい。手元にある資料を握り締め、コクリと首を縦に振るしかなかった。

 
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