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第一章
64.真相は闇の中1
しおりを挟む一月もすればまるで事件などなかったかのように後宮に平穏が戻った。
私もいつものように内侍省の長官室で仕事をしている。いつの間にか内侍省への出入り自由になっていた。もう、右筆係ではなく何でも屋の気分。手を動かしながら、それでも事件のあらましが気になる。事件以来、青は女官の連続変死事件のことも宴での殺害事件のことも何も言わない。
まるで始めから何もなかったかの如く――
「ねぇ、おかしくない?この事件」
「杏樹……」
「どうも出来すぎてる気がするのよね。青の同じなんじゃないの?」
「……これ以上は深入りするな。過去の人間みたいになりたくないだろう」
「それって……」
青は無言で立ち上がると資料棚に向かうと黄ばんだ一冊の後宮記録を持ってきた。
「読んでみろ」
「え? これ事件に関係あるの?」
「読めば分かる」
そう言い放ち、すぐに仕事の続きをやり始めた。仕方なく渡された後宮記録に目を通していく。書かれていた内容は今から約二十年前に後宮で起こった事件だった。
【一人の宦官が失踪した。名前は弘賀。歳は数えで十八歳。この宦官は一年前に入宮したばかりの新人の若手で、「帰らずの宮女事件」に巻き込まれ死亡したのではないかという噂が流れた。その事を踏まえて内侍省の役人が捜査に乗り出した。調査がある程度進んだ段階で弘賀の部屋から辞表らしきものが見つかった。「故郷に帰りたい」という文面から、自らの願いを叶えるため命を絶ったのではないかと言う者が現れた。それ以降、「弘賀は異常なほど家族や故郷を恋しがっていた」「夜中によく徘徊していた」という報告が多数上がってきた。ただ、弘賀と顔見知りであった内侍省の役人の一人が「彼の徘徊は夢遊病とは少し違う。弘賀殿は常に陽気で楽しい人物だ。家族や故郷を懐かしむことはあったがそこまで思い詰めていた様子は見られなかった」という証言は重要視される事はなく、実際に彼の部屋には荷物が無くなっていた。遺体らしきものは見つからなかったものの、失踪した宦官の常日頃の行動故にこれは事件性無しと見做された。また、下っ端だった事もあり、深く追及される事なく終わる。この突然の失踪に対して後宮は「郷愁故の退職」として受理された。数年後、使われていなかった井戸から人骨が見つかった事から件の宦官の遺体だと判断される】
これは一体……。
最初に出てくる“帰らずの宮女事件”って……それに何だかおかしな内容になっているけど……どうみても事件性ありのものでは?
◇◇◇◇◇
「帰らずの宮女事件」
注:後宮から消えてそのまま帰ってこない
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