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第一章
60.千秋節6
しおりを挟む騒ぎを聞きつけて駆けつけた内侍省の役人達により、宴は中止され一同を各自の宮に戻すよう指示された。
「お待ちなさい!巽才人の杯を飲んだ郭婕妤が亡くなったのよ?毒を盛ったのは彼女で決まりでしょう。犯人は巽才人ではないの!?」
徳妃が声を上げたが、それはあっさりと却下された。
「確かに巽才人の杯には酒が入っていました。しかし、それだけで巽才人が犯人とは限りません。元々、巽才人のものを郭婕妤が奪い取った形で飲み干しているのです。この場合、巽才人が狙われていたとみるべきでしょう」
内官の言葉に納得がいかないのか徳妃は更に詰め寄る。
「巽才人と郭婕妤は言い争っていたわ!それにあの二人はとても仲が悪いのよ?それが動機なのではない?」
「その可能性もございます。けれど……先程も申し上げました通り杯は巽才人の膳に置かれたもの。それも、巽才人のために用意された果実酒だと言うではありませんか」
「……くっ」
内官の実の常識的な分析に徳妃は悔し気に押し黙るものの、諦めるつもりはないらしい。
「郭婕妤は気性の激しい女子。巽才人も何かしら郭婕妤にされていたのではなくて?だから邪魔になったのでは?」
「徳妃様、郭婕妤は後宮入りしてから今まで争いの絶えない妃だということは誰もが知っている事ですわ。寧ろ、郭婕妤と仲の良い妃を見つけ出す方が難しいのではないかしら?皆さま、大なり小なり被害を被っているようですし……。それとも徳妃様は巽才人が犯人であった方が宜しいのかしら?郭婕妤ではなく巽才人が杯に口を付けていた方がよかったと仰いますの?」
姉上がそう返すと徳妃の顔は徐々に青ざめていく。
「そんな事は言ってはいないわ……けれど……!」
「では何を仰りたいのでしょう? 徳妃様の意見は推測でしかないでしょう?それを断定的に言われるのはどうかと思いますけど……?それとも何か御存知なのでしょうか?」
「何故私が!!」
「何も無ければ憶測だけで物申される必要などございません。何か思うところがあるから、そう言われていると思ったのですが違いますか? なにしろ、徳妃様は『杯に毒が入っていた』と明言されておりましたので……何か知っていたのではと推測した次第です」
姉上の言葉に徳妃は反論できない様子だった。
「……もう結構です!」
そう叫ぶと徳妃は踵を返して去って行った。
「とにかく、一旦皆様はそれぞれの宮殿へお帰りください」
内官の言葉に、他の妃たちも渋々と言った感じで従い始めた。
「杏樹、私たちも部屋に戻りましょう。勿論、私達の宮殿にね」
「はい」
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