後宮の右筆妃

つくも茄子

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第一章

59.千秋節5

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「何なのよ!あんた!今まですましきってたクセに!!」

「馬鹿を相手にしたくなかっただけです」

「なっ!? わ、私が馬鹿ですって~~!!!」

「あら?御自覚はあったんですか。良かった。無自覚の馬鹿よりも自覚ある馬鹿の方が改善する率が高いですからね」

「ふざけないで!!」

「ふざけていません。貴女のその品性の卑しい行動の数々に呆れているんです。勿論、私だけでなく後宮中の者もそうでしょう。貴女が誰から構わず喧嘩を売るのでその度に貴妃様が相手に謝罪されているのを御存知ないのですか?貴女がこの後宮で何の憂いもなく過ごせているの偏に貴妃様のお陰だというのに……恩を仇で返すとはこのこと」

「っっつ!!なによ!叔母様が勝手にやっている事よ!!何も知らない癖に!!!」

 吐き捨てるように言い放つと、郭婕妤は私の膳に置いてある杯をひったくるとそのまま中身を口に含んだ。
 
「ちょっと何をしているのですか!」

 突然の行動に私の侍女たちは慌てる。
 まさかそんな暴挙に出るとは思わなかったのだろう。
 私も思わない。本当に良家の娘なのか甚だ疑問だ。わがままに育てられたとはいえ、最低限の礼儀は学んで欲しいものだわ。一気に飲み干した郭婕妤は「してやったり」と言わんばかりの表情で私を見ると急に小刻みに震えだした。

 
 胸を抑えて苦し気に咳きこみ始め――


「ゲボ…オエッ……グゥ……」

 血を吐き出してその場に倒れたのだ。

「きゃぁぁあ!!!」

 叫び声が上がる。
 慌てて駆け寄ってきた女官に支えられながら、郭婕妤はその意識を失った。
 周囲は騒然となり、目の前で起こった事態についていけないまま固まっている私をよそに周りは騒ぎだす。呆然としたまま動けずにいた私は、周りの騒めきだけが頭の中に響いていた。
 
「誰か!侍医を!」
 
「早く!!」
 
 喧騒の中、「杏樹」という声が響く。
 いつの間にか隣にいたのは姉上であった。姉上は心配そうな表情のまま私の手を握ってくれた。
 
「大丈夫?貴女は何もない?」
 
「あ、姉上……」

 首を縦に振る事しかできなかった。姉上の手を握り返しているうちにだんだん落ち着いていくのが分かる。


 侍医が駆けつけてきて、治療を施していく。一向に回復する気配がない。やがて侍医たちは首を横に振った。どうやら手遅れらしい。


 明らかに尋常じゃない様子。
 まさか毒……?
 毒殺されたのではないかと思うくらい凄まじい症状だった。けど、それならば合点がいく。……けれど一体誰が?この宴に参加している妃の誰かだろうか?でも何故、郭婕妤を?彼女を殺したところで得られるものなどない。陛下からの寵愛さえ受けていない。階級も高くない妃。
 
 分からない。
 動機が見当たらない。
 ただ分かることは彼女が死んだという事実だけ……。

 
 ――嫌な予感ばかり頭を過っていく。


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