後宮の右筆妃

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
59 / 82
第一章

59.千秋節5

しおりを挟む

「何なのよ!あんた!今まですましきってたクセに!!」

「馬鹿を相手にしたくなかっただけです」

「なっ!? わ、私が馬鹿ですって~~!!!」

「あら?御自覚はあったんですか。良かった。無自覚の馬鹿よりも自覚ある馬鹿の方が改善する率が高いですからね」

「ふざけないで!!」

「ふざけていません。貴女のその品性の卑しい行動の数々に呆れているんです。勿論、私だけでなく後宮中の者もそうでしょう。貴女が誰から構わず喧嘩を売るのでその度に貴妃様が相手に謝罪されているのを御存知ないのですか?貴女がこの後宮で何の憂いもなく過ごせているの偏に貴妃様のお陰だというのに……恩を仇で返すとはこのこと」

「っっつ!!なによ!叔母様が勝手にやっている事よ!!何も知らない癖に!!!」

 吐き捨てるように言い放つと、郭婕妤は私の膳に置いてある杯をひったくるとそのまま中身を口に含んだ。
 
「ちょっと何をしているのですか!」

 突然の行動に私の侍女たちは慌てる。
 まさかそんな暴挙に出るとは思わなかったのだろう。
 私も思わない。本当に良家の娘なのか甚だ疑問だ。わがままに育てられたとはいえ、最低限の礼儀は学んで欲しいものだわ。一気に飲み干した郭婕妤は「してやったり」と言わんばかりの表情で私を見ると急に小刻みに震えだした。

 
 胸を抑えて苦し気に咳きこみ始め――


「ゲボ…オエッ……グゥ……」

 血を吐き出してその場に倒れたのだ。

「きゃぁぁあ!!!」

 叫び声が上がる。
 慌てて駆け寄ってきた女官に支えられながら、郭婕妤はその意識を失った。
 周囲は騒然となり、目の前で起こった事態についていけないまま固まっている私をよそに周りは騒ぎだす。呆然としたまま動けずにいた私は、周りの騒めきだけが頭の中に響いていた。
 
「誰か!侍医を!」
 
「早く!!」
 
 喧騒の中、「杏樹」という声が響く。
 いつの間にか隣にいたのは姉上であった。姉上は心配そうな表情のまま私の手を握ってくれた。
 
「大丈夫?貴女は何もない?」
 
「あ、姉上……」

 首を縦に振る事しかできなかった。姉上の手を握り返しているうちにだんだん落ち着いていくのが分かる。


 侍医が駆けつけてきて、治療を施していく。一向に回復する気配がない。やがて侍医たちは首を横に振った。どうやら手遅れらしい。


 明らかに尋常じゃない様子。
 まさか毒……?
 毒殺されたのではないかと思うくらい凄まじい症状だった。けど、それならば合点がいく。……けれど一体誰が?この宴に参加している妃の誰かだろうか?でも何故、郭婕妤を?彼女を殺したところで得られるものなどない。陛下からの寵愛さえ受けていない。階級も高くない妃。
 
 分からない。
 動機が見当たらない。
 ただ分かることは彼女が死んだという事実だけ……。

 
 ――嫌な予感ばかり頭を過っていく。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...