後宮の右筆妃

つくも茄子

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第一章

58.千秋節4

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 視線を向けると、そこには郭婕妤の姿があった。
 私は思わず眉を寄せてしまう。それというのも、郭婕妤が明らかに酔っぱらっていたからだ。顔を真っ赤にして足元がおぼつかない様子。どうやら、相当飲んでいるようだ。

「ちょっと、年増のオバさんはもっと隅にいってくださる~~?」

 賢妃に向かっての暴言を吐くと、私と賢妃の間にドカッと座りこんだ。礼儀も何もあったものでは無い。

「郭婕妤、失礼ですよ」

「賢妃は四夫人。立場を弁えてください」

 賢妃の侍女が注意するも、郭婕妤は全く聞く耳を持たない。

「なぁーにぃ? 私に意見する気?大した身分でもないのに皇女を産んだってだけで賢妃に昇格できたんでしょ~?」

 完全に泥酔している。呂律も回っていない上に、顔には締まりがない。こんな状態ではまともに話を聞くことも出来ないだろう。

「それにぃ~、おじい様にいっちゃえば~貴女のお父様を左遷できるのよ~~? わかっているのかしら~~? あははっ!」

 下品な笑い声を上げると、さらに酒をあおった。賢妃側は悔し気に唇を噛みしめている。朝廷の勢力図が後宮にも反映している証拠だった。郭婕妤が言った身分の低い出と言う訳ではなく、賢妃も名家の出身。それでも丞相の家には敵わない。

「ねぇ、巽才人。貴女、婚姻が破談になっちゃったってほんと~~?それでココにきたって?」
 
「本当ですよ」

「 あはっ!すごいわ、私だったら恥ずかしくて外にもでられな~~い!もしかして自分が~皇后になれるとでも思ってる?ねぇ、どうなの~~?」
 
「……思ってませんよ」
 
「うふふっ、ほんと~~?ま、ほんと~のことなんてココじゃあ言えないっか!で~~も残念でした~~貴女は所詮はただの妃どまり……陛下の寵愛が無くなったらそこでお終いなの~~わかる~~?」
 
「…………」
 
「だから~せいぜい頑張って媚びを売ることね~~ほぉーんっと、惨めだわぁ~~」

 何が楽しいのか上機嫌で笑う。
 酔っぱらいの戯言と思って聞き流せばいいのかもしれないけれど、この時は何故かそうする事ができなかった。むせ返る匂いのせいかもしれない。イライラが止まらないのだ。
 
「……その言葉は、一度でも陛下の御渡りがあってから仰ってください。でなければ、負け犬の遠吠えにしか聞こえませんよ。説得力も無いですね。それと先ほどから御自身の家柄を自慢していますが、郭家は貴族の中ではまだ新参者。歴史ある家柄とは言えませんし、旧家の出身を名乗るには二百年ほど早いのでは?」

 私がそう返すと、一気に郭婕妤の顔が紅潮していく。怒りによってか酒のせいかわからないけれど。
 
「なんですってぇ!!」
 
「だってそうでしょう? そもそも陛下の御渡りがなければ皇后どころか後宮での立場もなくなるでしょう。その前に、貴妃様がいる以上、貴女にその地位は巡ってこないのではありませんか?郭家としても、貴女よりも貴妃様の方を重要視なさっているのでは?そもそも、四夫人がいるのに貴女がその上をいくなど天地がひっくり返ってもあり得ない事でしょう」

 言いたいことをはっきり言うと、郭婕妤は一瞬怯んだような表情を見せる。唖然とした表情は年齢より幼く見えた。周囲の女官や侍女たちはそんな彼女をクスクスと嘲笑い始める。さっきよりも更に顔を赤くした郭婕妤は全身をぶるぶると震えさせた。
 怒りか、それとも屈辱か、そして次の瞬間――
 
「~~~~っ、生意気だわ!!」

 怒りを爆発させた。
 


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