57 / 82
第一章
57.千秋節3
しおりを挟む
宴が賑やかになる中、私の前に果実酒が置かれた。
私の好きな酒の一つ。貴妃は事前に調べていたのだろう。その細やかな気遣いには感嘆する他なかった。いつもなら直ぐに飲み干してしまうのだけれど、生憎、今日はそんな気分でもなかった。宴の熱気とこの場に漂う甘い香りに酔ってしまい、さっきから気分が悪かった。
姉上と席が離れているせいかしら?
なんだか落ち着かない。
一応、正二品。
席順では上座にいるものの、淑妃である姉上とは向かい合う形になってしまっていた。これも仕方ない事なのだけれど、何かと貴妃と張り合う徳妃には特別配慮したのだろうと考えざるおえない。貴妃と向かい合う位置にいるのが徳妃なのだから……。主催する側とはいえ、ここまで徹底的なのも貴妃だからこそとも言えた。これが徳妃なら絶対に出来ないだろうことも分かる。私と徳妃の間に賢妃が座っている事で徳妃が私に絡んでくる心配もない。
ちらりと盗み見る形で徳妃を見る。
彼女はこの場の誰よりも華やかに装っている。
それがまた貴妃とは対照的だ。貴妃は華美になり過ぎない装いをしていたから。この宴は陛下を祝うと共に新しく入内した妃のお披露目の場でもあるのだろう。自分よりも妃達に花を持たせるあたり、貴妃らしいと言える。
それに比べて徳妃は派手好きというのか……派手過ぎる装いだ。しかも、彼女の後ろに控えている侍女達も徳妃に倣って煌びやかな衣を身に纏っていた。爛々とした眼差しで陛下を見つめる侍女達。彼女達の目的は容易に理解できた。陛下の「侍妾」を狙っているのだと。気に入られれば妃の位を手に出来る。徳妃も承知の上なのだろう。徳妃は美しい。けれど、妃達の中では年配者になっているのも確かだった。今後の事も踏まえて、自分の駒と成り得る者を陛下の閨に送り込みたい算段であるのは明白。それを指示したのはきっと彼女の親兄弟である事は想像がついた。徳妃に御子はいない。焦っているのかもしれない。それは徳妃か、それとも……。
「あらぁ~、巽才人様ではありませんことぉ?」
暢気に考え事をしている雑音が聞こえてきた。
私の好きな酒の一つ。貴妃は事前に調べていたのだろう。その細やかな気遣いには感嘆する他なかった。いつもなら直ぐに飲み干してしまうのだけれど、生憎、今日はそんな気分でもなかった。宴の熱気とこの場に漂う甘い香りに酔ってしまい、さっきから気分が悪かった。
姉上と席が離れているせいかしら?
なんだか落ち着かない。
一応、正二品。
席順では上座にいるものの、淑妃である姉上とは向かい合う形になってしまっていた。これも仕方ない事なのだけれど、何かと貴妃と張り合う徳妃には特別配慮したのだろうと考えざるおえない。貴妃と向かい合う位置にいるのが徳妃なのだから……。主催する側とはいえ、ここまで徹底的なのも貴妃だからこそとも言えた。これが徳妃なら絶対に出来ないだろうことも分かる。私と徳妃の間に賢妃が座っている事で徳妃が私に絡んでくる心配もない。
ちらりと盗み見る形で徳妃を見る。
彼女はこの場の誰よりも華やかに装っている。
それがまた貴妃とは対照的だ。貴妃は華美になり過ぎない装いをしていたから。この宴は陛下を祝うと共に新しく入内した妃のお披露目の場でもあるのだろう。自分よりも妃達に花を持たせるあたり、貴妃らしいと言える。
それに比べて徳妃は派手好きというのか……派手過ぎる装いだ。しかも、彼女の後ろに控えている侍女達も徳妃に倣って煌びやかな衣を身に纏っていた。爛々とした眼差しで陛下を見つめる侍女達。彼女達の目的は容易に理解できた。陛下の「侍妾」を狙っているのだと。気に入られれば妃の位を手に出来る。徳妃も承知の上なのだろう。徳妃は美しい。けれど、妃達の中では年配者になっているのも確かだった。今後の事も踏まえて、自分の駒と成り得る者を陛下の閨に送り込みたい算段であるのは明白。それを指示したのはきっと彼女の親兄弟である事は想像がついた。徳妃に御子はいない。焦っているのかもしれない。それは徳妃か、それとも……。
「あらぁ~、巽才人様ではありませんことぉ?」
暢気に考え事をしている雑音が聞こえてきた。
1
お気に入りに追加
932
あなたにおすすめの小説
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる