後宮の右筆妃

つくも茄子

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第一章

56.千秋節2

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 郭貴妃主催の千秋節は、それは盛大に催された。
 後宮の妃達が一堂に会するこの催しは、それだけで郭貴妃の権勢の高さを物語っていた。妃の位の高い順から上座に座るようになっている構成は秩序を重んじる郭貴妃らしくはあるが、同時にそれは彼女の妃達への配慮も示していた。

 流石は貴妃と言うべきだわ。
 彼女の主催する宴には余計なものが何一つとして存在しなかった。華

 美ではなく上品な、しかして贅を尽くした食事や酒の数々、一流の楽師が奏でる雅やかな音楽――

 全てが完璧な調和を生み出している。さりげなく他の妃と会話が出来るよう配慮されているし、給仕を務める女官や宦官たちも気遣いに長けた者が選ばれている。こういった細やかな気配りこそが後宮の女主人に求められるものなのだと感じさせられた。


 しかも――
 

「陛下、今宵の宴に相応しい姫達を紹介いたしますわ」

 艶然と微笑み、入内したばかりの郭婕妤と数名の妃達を陛下の前に召し、一人一人の名前と与えられた位を呼び上げ挨拶をさせていく。
この日のために美しく着飾った彼女たちからは、自信と野心に満ちた香りが漂ってくるようだった。しかも、何故か陛下の挨拶の後で、私を睨みつけてくるので何とも居心地が悪かった。

「皆、若く美しい姫君ばかりですわ。後宮が更に華やぐことは間違いないでしょう。陛下も新しい妃達を可愛がってあげてくださいましね?」

「……あぁ、善処しよう」

「王美人は琴の名手でいらっしゃいますわ。私は、まだ聞いたことが無いのですけれど、それは素晴らしいと評判ですわ。ぜひ、聞いて差し上げて下さいませね?それから――……」

 始まった妃達の管弦による演奏と舞。
 まるで競うかのように披露されていくのに、決して自分の方が上手く舞えるだろうと言い合うようなものでなく、ただただお互いを高め合い磨き上げようと言わんばかりの熱意が込められていた。

 これは……凄いわ。
 素直に感心させられるほどの腕前を持つ妃達。
 恐らく、この日のために練習を重ねてきたのであろうことがよくわかる。中心で舞うのは郭婕妤。彼女もまた負けじと食らいつくように舞い続けている。ふわりと翻る衣の動きの一つひとつが計算され尽くされており、視線を引きつけるような華やかさと可憐さを醸し出していた。そして、その動きに合わせて奏でられる音色はどこまでも軽やかである。

 宴は妃達の演目によって盛り上がりを見せていった。
 
「皆、見事であったぞ。王美人は貴妃が絶賛するだけはある。何時までも聞いていたと思う程に素晴らしかった」

「勿体無いお言葉でございます」

 陛下の言葉に、王美人が嬉しげに頬を染めた。

 その後、陛下が貴妃になにやら耳打ちしていたので、たぶん王美人を今宵召し上げるのだろう。
 
 
 

 




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