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第一章
55.千秋節1
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「宴……ですか?姉上」
「えぇ、もうじき陛下の誕生日でしょう? 毎年、後宮では陛下の誕生祝いが盛大に催されているみたいだわ。昨年は相次いで不幸が重なったものだから陛下は宴を開くのを禁止されていたらしいの。最近は落ち着いてきているでしょう。今年は開催するべきだと貴妃様が進言されたそうよ」
後宮入りして一年。
一年ぶりになる千秋節は今まで以上に盛大に執り行われる事が決定した。
「杏樹は知らなかったのか? 千秋節を取り仕切るのは郭貴妃だ。本来は皇后が行うもんだが……まあ、今代に皇后陛下はいねぇからな。最初は四夫人が持ち回りでやっていたらしいぜ」
「そうなの?」
「ああ、俺も聞いた話だけどな。ただ、そのうち郭貴妃が取り仕切り始めたんだとよ。郭貴妃は皇子を産んでいるからな。皇后候補だっていう噂は今も変わらずあるしな。他の妃共よりも上にいるのも確かだ」
「それなのに皇后にはなれていないのね……」
「まあな。元々、郭貴妃が今の皇帝に入内したのも異例中の異例だからな。そもそも、皇后になれるような立場じゃなかったからな。当時は他にも有力貴族の娘が軒を連ねるようにして後宮に居たって話だ」
「でも、陛下の立っての願いで入内したんでしょう?」
「表向きはな」
「違うの?世間では陛下が郭貴妃を見初めて尼寺から自身の後宮に入れたって話だけど……え?違うならなんで……?」
「……一応、そういうことになってる」
なんだか今、不穏な言葉が聞こえたわ。
青に目を向けると筆を一心不乱に動かしていた。
「そういうことってどういう意味?」
「……そのまんまだ。当時、陛下の治世は盤石じゃなかった。先代皇帝には世継ぎとなる皇子が居なかったことが問題なんだけどな」
「遺言状で今の陛下を名指ししていたんじゃなかった?」
「まあな。世継ぎには他にも有力候補は居たからな」
「そうなの?」
「ああ……。先代皇后が推挙していたらしいぜ」
「え……?そうなの?」
初耳の情報に驚くしかない。
私の知らない情報が次々と出てくるけど……これ、聞いてもいいもの?
「結局、遺言状があったから隆基陛下が即位したんだ。が、それに納得できねぇ奴らが多かったんだよ。当時の朝廷にも派閥があってな。その中の一派が権力争いを始めたわけだ」
「そんなことが……」
「そりゃそうだろ。誰だって自分の支援してる皇子や親しくしている皇子に皇帝になって欲しいもんだ。面白くない奴らも多かったらしいぜ」
「もしかして、後宮に名家の出身者が多いのって……」
「陛下の実母は元々下級役人の娘だって話だ。妃の位も低かったらしい。後ろ盾になる貴族が少なくても仕方ねぇ」
青の説明で何だか納得してしまった。
先代皇帝は身分の貴賤を問わずに後宮の女人たちを寵愛していた。それに対して現皇帝の後宮は名家揃い。出自に対する劣等感だけでなく大貴族達の後見という意味でもあったのね。先代皇帝と現皇帝は異母兄弟で、親子ほど歳が離れていたはず……。
「正反対の異母兄弟ね」
「……先代は皇后腹の嫡出だ。現皇帝陛下と違っていて当然だろ」
「それもそうよね……」
「話が逸れたな。それで、有力貴族の連中の間で色々と揉めた結果、皇后を決めるのが先送りになったんだとよ。皇后の候補は何人もいたしな」
朝廷の権力争いが後宮に思っていた以上に食い込んでいるのね。
「でも、郭家は他にも娘がいるのに、どうして貴妃をわざわざ陛下に入内させたの?だって、貴妃は先代皇帝の妃だった人でしょう?」
「そこだよ。郭家が何で貴妃を入内させたのか。まあ、単純に考えて貴妃が一番の美女だったからじゃねぇか?先代皇帝の寵愛を一身に受けてたんだ。未亡人って言っても陛下より若い訳だしな。当時でもまだ二十歳になるかならないかだった筈だぜ?恐らく、郭家との間で何らかの取引はしてるだろう。尼さんを還俗させるんだ。もっともらしい言い訳は必要だろうが、貴妃はあの美貌だ。美貌に目がくらんだと周りが勝手に思って便乗したんだろうぜ」
「そんな……」
「まあ、あくまでも憶測だがな。真実は分からん。ただ、郭貴妃が皇子を産んだことでかなり後宮内の勢力は変わったのは間違いねぇ。それでも皇后の地位にいないってのは、まあ、色々あるんだろうぜ。郭貴妃も皇后になってはいないが、それと同等の発言力がある。後宮内じゃあ、時間の問題だと思われてんだよ」
「そう……」
単純なようで複雑化している後宮に苦笑いが漏れた。
「えぇ、もうじき陛下の誕生日でしょう? 毎年、後宮では陛下の誕生祝いが盛大に催されているみたいだわ。昨年は相次いで不幸が重なったものだから陛下は宴を開くのを禁止されていたらしいの。最近は落ち着いてきているでしょう。今年は開催するべきだと貴妃様が進言されたそうよ」
後宮入りして一年。
一年ぶりになる千秋節は今まで以上に盛大に執り行われる事が決定した。
「杏樹は知らなかったのか? 千秋節を取り仕切るのは郭貴妃だ。本来は皇后が行うもんだが……まあ、今代に皇后陛下はいねぇからな。最初は四夫人が持ち回りでやっていたらしいぜ」
「そうなの?」
「ああ、俺も聞いた話だけどな。ただ、そのうち郭貴妃が取り仕切り始めたんだとよ。郭貴妃は皇子を産んでいるからな。皇后候補だっていう噂は今も変わらずあるしな。他の妃共よりも上にいるのも確かだ」
「それなのに皇后にはなれていないのね……」
「まあな。元々、郭貴妃が今の皇帝に入内したのも異例中の異例だからな。そもそも、皇后になれるような立場じゃなかったからな。当時は他にも有力貴族の娘が軒を連ねるようにして後宮に居たって話だ」
「でも、陛下の立っての願いで入内したんでしょう?」
「表向きはな」
「違うの?世間では陛下が郭貴妃を見初めて尼寺から自身の後宮に入れたって話だけど……え?違うならなんで……?」
「……一応、そういうことになってる」
なんだか今、不穏な言葉が聞こえたわ。
青に目を向けると筆を一心不乱に動かしていた。
「そういうことってどういう意味?」
「……そのまんまだ。当時、陛下の治世は盤石じゃなかった。先代皇帝には世継ぎとなる皇子が居なかったことが問題なんだけどな」
「遺言状で今の陛下を名指ししていたんじゃなかった?」
「まあな。世継ぎには他にも有力候補は居たからな」
「そうなの?」
「ああ……。先代皇后が推挙していたらしいぜ」
「え……?そうなの?」
初耳の情報に驚くしかない。
私の知らない情報が次々と出てくるけど……これ、聞いてもいいもの?
「結局、遺言状があったから隆基陛下が即位したんだ。が、それに納得できねぇ奴らが多かったんだよ。当時の朝廷にも派閥があってな。その中の一派が権力争いを始めたわけだ」
「そんなことが……」
「そりゃそうだろ。誰だって自分の支援してる皇子や親しくしている皇子に皇帝になって欲しいもんだ。面白くない奴らも多かったらしいぜ」
「もしかして、後宮に名家の出身者が多いのって……」
「陛下の実母は元々下級役人の娘だって話だ。妃の位も低かったらしい。後ろ盾になる貴族が少なくても仕方ねぇ」
青の説明で何だか納得してしまった。
先代皇帝は身分の貴賤を問わずに後宮の女人たちを寵愛していた。それに対して現皇帝の後宮は名家揃い。出自に対する劣等感だけでなく大貴族達の後見という意味でもあったのね。先代皇帝と現皇帝は異母兄弟で、親子ほど歳が離れていたはず……。
「正反対の異母兄弟ね」
「……先代は皇后腹の嫡出だ。現皇帝陛下と違っていて当然だろ」
「それもそうよね……」
「話が逸れたな。それで、有力貴族の連中の間で色々と揉めた結果、皇后を決めるのが先送りになったんだとよ。皇后の候補は何人もいたしな」
朝廷の権力争いが後宮に思っていた以上に食い込んでいるのね。
「でも、郭家は他にも娘がいるのに、どうして貴妃をわざわざ陛下に入内させたの?だって、貴妃は先代皇帝の妃だった人でしょう?」
「そこだよ。郭家が何で貴妃を入内させたのか。まあ、単純に考えて貴妃が一番の美女だったからじゃねぇか?先代皇帝の寵愛を一身に受けてたんだ。未亡人って言っても陛下より若い訳だしな。当時でもまだ二十歳になるかならないかだった筈だぜ?恐らく、郭家との間で何らかの取引はしてるだろう。尼さんを還俗させるんだ。もっともらしい言い訳は必要だろうが、貴妃はあの美貌だ。美貌に目がくらんだと周りが勝手に思って便乗したんだろうぜ」
「そんな……」
「まあ、あくまでも憶測だがな。真実は分からん。ただ、郭貴妃が皇子を産んだことでかなり後宮内の勢力は変わったのは間違いねぇ。それでも皇后の地位にいないってのは、まあ、色々あるんだろうぜ。郭貴妃も皇后になってはいないが、それと同等の発言力がある。後宮内じゃあ、時間の問題だと思われてんだよ」
「そう……」
単純なようで複雑化している後宮に苦笑いが漏れた。
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