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第一章
47.皇帝side
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巽家の二人の姫君は本当に賢い。
心強い限りだ。
慌てふためく臣下達は未だに気付いていないようだが、巽才人は最初から気付いている。気付いた上で彼らに微笑んでいる。ククッ。本当に愉快だ。巽才人は内心溜息をつきたい心境であろう。それとも朕を罵倒しているのやもしれんな。
今回の妃と子供達の件を上手く使えば、巽才人の地位を向上させられる。そうなれば序列を上げる事も容易だ。四夫人は既に埋まっているが、新たに妃の地位を設ければどうにでもなる。淑妃は妹御を心配して暫くそのままの地位に置いておきたいようだがな。
「陛下、郭貴妃様が薔薇園にてお待ちになっております」
やはり、動いたか。
「貴妃は何か言っていたか?」
「いいえ、何も申してはおりませんでした。陛下と二人で花を愛でたいと仰せです」
ただの御機嫌伺いではあるまい。恐らく、昨日の件だろうことは間違いない。丞相は娘に昨日の事を話しているようだな。それも当然か。野心に取り付かれた人間がそう易々と引き下がるものではない。
「皇帝陛下にお願いしたき儀がございます」
郭貴妃は深々と頭を垂れた。朕にはその頭頂部しか見えない。しかし彼女が何を求めているのかは手に取るようにわかる。
「良い。申すが良い」
朕が言うと郭貴妃は頭を上げた。
「恐れながら、どうか私も他の妃たち同様に“静養殿”にお迎えくださいませ」
ほぅ、そう来たか。
予想通りの答えであった。
相変わらず耳が良い。気鬱になった妃達を一か所にまとめる話を既に知っておったか。しかも宮殿の名前まで把握しているとは……。
「何故そなたが静養殿に入るのだ? 他の妃達と違って気鬱の病という訳でもあるまい」
この問いに対する回答もまた、予想していたものだ。
「確かに私は他の妃達とは違いますわ。ですが、私もいい歳です。とうに四十路を過ぎた大年増ですわ。私のように枯れ果てた妃よりも、陛下のお傍には美しく咲き誇る妃の方が良いと思われませんこと?」
「後宮一の美しさを誇る貴妃が何を言う」
「まぁ……お戯れを。ですが、世辞と分かっていても嬉しゅうございます。なれど、私もやはり寄る年波には勝てませんわ。我が兄に大変美しい姫がおります。その者を是非とも後宮に迎え入れていただきたく存じます。私の姪にあたる姫はそれは美しいと評判で、巽才人にも劣らぬ器量よしでございます。きっと、ご満足いただけるかと思いますわ」
なるほど、考えたな。
自分の地位を守るために今後は孫娘を送りこんでくるとは。しかしなぁ、朕から言わせてもらえれば些か浅慮であると思うぞ。それとも、「才人」の座を奪おうという魂胆か……。どちらにしても娘や孫の幸せなど一切考えないあの者らしい行動だ。
それにしても貴妃の姪か……。
「まるで先代のようだな」
朕がポツリと言うと、郭貴妃の背後に控えている女官の顔色が変わった。これは面白いものが見られるかもしれん。
さて、どんな返答をするのか楽しみにしておこうか。朕が無表情に彼女の顔を見据えると彼女は少しばかり動揺しているようだ。目が泳いでいるしな。実にわかりやすい反応を見せてくれるではないか。これではまるで図星と言っておるようなものである。
「まぁ、そう言われるとそうですわね。けれど、陛下。私はしがない貴妃の身分。叔母上であらせられた皇后陛下とは違いますわ。先の皇后陛下のようなお方は今の後宮には少ないかと存じます。私も皇叔母上と違い陛下のお情けをいただき我が子をこの手に抱くことができております。先代の時とは何もかも違いますわ」
「そうだな」
貴妃は皇后ではないものの、その影響力は大きい。彼女がいなければ後宮内の勢力争いはもっと激しくなっていた事は確かだ。それ程までに貴妃は力を持っている。故に彼女を敵に回すような愚行を犯す者はいない。
心強い限りだ。
慌てふためく臣下達は未だに気付いていないようだが、巽才人は最初から気付いている。気付いた上で彼らに微笑んでいる。ククッ。本当に愉快だ。巽才人は内心溜息をつきたい心境であろう。それとも朕を罵倒しているのやもしれんな。
今回の妃と子供達の件を上手く使えば、巽才人の地位を向上させられる。そうなれば序列を上げる事も容易だ。四夫人は既に埋まっているが、新たに妃の地位を設ければどうにでもなる。淑妃は妹御を心配して暫くそのままの地位に置いておきたいようだがな。
「陛下、郭貴妃様が薔薇園にてお待ちになっております」
やはり、動いたか。
「貴妃は何か言っていたか?」
「いいえ、何も申してはおりませんでした。陛下と二人で花を愛でたいと仰せです」
ただの御機嫌伺いではあるまい。恐らく、昨日の件だろうことは間違いない。丞相は娘に昨日の事を話しているようだな。それも当然か。野心に取り付かれた人間がそう易々と引き下がるものではない。
「皇帝陛下にお願いしたき儀がございます」
郭貴妃は深々と頭を垂れた。朕にはその頭頂部しか見えない。しかし彼女が何を求めているのかは手に取るようにわかる。
「良い。申すが良い」
朕が言うと郭貴妃は頭を上げた。
「恐れながら、どうか私も他の妃たち同様に“静養殿”にお迎えくださいませ」
ほぅ、そう来たか。
予想通りの答えであった。
相変わらず耳が良い。気鬱になった妃達を一か所にまとめる話を既に知っておったか。しかも宮殿の名前まで把握しているとは……。
「何故そなたが静養殿に入るのだ? 他の妃達と違って気鬱の病という訳でもあるまい」
この問いに対する回答もまた、予想していたものだ。
「確かに私は他の妃達とは違いますわ。ですが、私もいい歳です。とうに四十路を過ぎた大年増ですわ。私のように枯れ果てた妃よりも、陛下のお傍には美しく咲き誇る妃の方が良いと思われませんこと?」
「後宮一の美しさを誇る貴妃が何を言う」
「まぁ……お戯れを。ですが、世辞と分かっていても嬉しゅうございます。なれど、私もやはり寄る年波には勝てませんわ。我が兄に大変美しい姫がおります。その者を是非とも後宮に迎え入れていただきたく存じます。私の姪にあたる姫はそれは美しいと評判で、巽才人にも劣らぬ器量よしでございます。きっと、ご満足いただけるかと思いますわ」
なるほど、考えたな。
自分の地位を守るために今後は孫娘を送りこんでくるとは。しかしなぁ、朕から言わせてもらえれば些か浅慮であると思うぞ。それとも、「才人」の座を奪おうという魂胆か……。どちらにしても娘や孫の幸せなど一切考えないあの者らしい行動だ。
それにしても貴妃の姪か……。
「まるで先代のようだな」
朕がポツリと言うと、郭貴妃の背後に控えている女官の顔色が変わった。これは面白いものが見られるかもしれん。
さて、どんな返答をするのか楽しみにしておこうか。朕が無表情に彼女の顔を見据えると彼女は少しばかり動揺しているようだ。目が泳いでいるしな。実にわかりやすい反応を見せてくれるではないか。これではまるで図星と言っておるようなものである。
「まぁ、そう言われるとそうですわね。けれど、陛下。私はしがない貴妃の身分。叔母上であらせられた皇后陛下とは違いますわ。先の皇后陛下のようなお方は今の後宮には少ないかと存じます。私も皇叔母上と違い陛下のお情けをいただき我が子をこの手に抱くことができております。先代の時とは何もかも違いますわ」
「そうだな」
貴妃は皇后ではないものの、その影響力は大きい。彼女がいなければ後宮内の勢力争いはもっと激しくなっていた事は確かだ。それ程までに貴妃は力を持っている。故に彼女を敵に回すような愚行を犯す者はいない。
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