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第一章
37.楊圭side
しおりを挟む妻に子が産まれた。
息子だ。
楊家の跡取り息子。
この喜ばしい出来事に私の両親は疑念を抱いている。
それは――
息子の早すぎる誕生にあった。
「母子共に無事に出産を終えたのは喜ばしいことです。けれど、あの子供はなんですか? 圭、貴男に似ても似つかない子供ではありませんか!」
「……母上、生まれたばかりの赤子の顔ですよ?まだ誰に似ているかなど分かりません」
「貴男にも、あの女狐にも似ていない子供を楊家の跡取りとして認める訳には参りません!」
この調子で、母上は取り付く島もない。
元々、陀姫との婚姻に猛反対していた母だ。
『巽家の杏樹だからこそ、義娘になることを楽しみにしていたんです。決して陀姫という女子ではありません。どうしても陀姫と婚姻したいというのなら貴男とは親子の縁を切ります』
母は本気だった。
父上が何とか取り成してくれたお陰で直ぐにどうこうの話はなくなったものの、私の楊家での発言権は著しく落ちたのは言うまでもない。
楊家の家裁は全て母上が取り仕切っている。外では高官として偉ぶっている父も母上には頭が上がらない。母上が「ダメだ」と言えば家中の者達はそれに尽き従う。母上は八州公の坤家の出。それも本家の姫君だ。楊家では太刀打ちできない処があるのだろう。杏樹との婚姻も母上が決めた。同じ八州公の姫なら楊家を盛り立てていける、と言って……。
確かに、杏樹は美しく賢い。
母上が気に入るのも分かる。
だが、男を立てる事を知らない。
まあ、それは母上も一緒だが。母上は表向き父に一歩下がっているが、内実は逆だ。私はそれが嫌だった。父上と同じようになるのが。仕事で疲れて帰っても家で寛ぐこともできないのだぞ?冗談ではない!
『あの女では楊家を盛り立てるどころか没落させるだけです』
母上は婚姻後も陀姫を「嫁」として認めなかった。長男の嫁が姑に無視されるのだ。家中の者もそれに倣う。弟や妹からも「どうして杏樹を裏切ったんだ」と責められた。私を誘惑して妹から婚約者を略奪した女というレッテルを貼られた陀姫は楊家で身の置き所のない立場となっている。その中で分かった懐妊。どれほど喜んだことか。
それなのに、何故誰もが疑念を抱くのだ。
巽家の姫との婚姻。
陀姫の何がいけないのだ!?
同じ姉妹ではないか!!
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