後宮の右筆妃

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
35 / 82
第一章

35.母の癇癪

しおりを挟む

のよ!!杏樹は私の言うことを聞いていればいいの!!!」

 沈黙を壊す母の甲高い声は室内に響き渡る。
 
「お継母様の仰る通り『今更』ですわ。ですが、『どうでもいい』とはどういう意味でしょう。まさかとは思いますけれど、杏樹が二人に騙され裏切られた事を仰っていらっしゃるのなら、私はお継母様の神経を疑わざるおえませんわ。何度も言いますが、杏樹は被害者なんです。裏切った加害者を擁護する発言はお控えください。不愉快です」

「な、何故、そんな酷い事をいうの? 陀姫は貴女には妹、杏樹には姉。三姉妹なのよ? なのに、どうして陀姫をのけ者にするの!? だけで責められるなんて可哀想だわ!! 陀姫は泣いているのよ? どうして仲良くしてくれないの!!!」

「あの子の泣き癖は今に始まった事ではありませんわ。自分に都合が悪くなるとすぐに泣いてしまう。それに付き合う程、私も杏樹も暇ではありません。それに、陀姫が楊家に嫁いだ時に姉妹の縁を切っております。それは私だけでなく、杏樹もですわ。姉妹の縁切りと巽家への出入りを禁止を条件に私は二人の婚姻の許可をだしたのです。もしや、それさえもお忘れになったのですか?」

「覚えているわ!でも、どうして貴女の許可がいるの?! 屋敷の者達も貴女の命令しか動かない!! こんなのおかしいわ!!!」

「何もおかしくはございません。私が巽家の『女主人』なのですから。お継母様は『女主人』の務めを放棄なさいましたし、お父様もそれをお認めになられました。それは私が何処に嫁ごうと変わらない『権利』なのです。これは、私が入内する前から言い続けている事ですが……ご理解していらっしゃらないのですか? お父様、お継母様に御説明されていませんの?」

「いや……説明はした。その……理解していないとは思わなかった」

 首を垂れる父上に姉上は溜息を吐いた。

「まぁ、父上は女人の涙と嘘に弱いですから仕方ありませんわね。私が何度、陀姫の嘘を証人を交えて説明したか分かりませんもの。お父様、『陀姫の可愛らしい嘘』で私の杏樹が迷惑を被っているんですから、いい加減学習なさってください」

 だんまりを決め込む父上の姿は私の知る父では無かった。
 何時も威厳ある態度の父上が……。


「な、なんなの!? 陀姫が嘘をついているって……あの子は良い子よ! もし、嘘をついたとしても……やむにやまれぬ事情があったのよ!」

「ありませんよ。あの子は息を吐くように嘘をつきますから」

「で、でも!」

「お継母様の前では『良い子』でいたようですが、それは、お継母様の望む『良い子』に過ぎません。屋敷の者達にでも聞いてみてください。あの子の本性が分かりますよ。使用人に聞くのがお嫌なら、親族の誰かに聞いては如何ですか。皆、陀姫が『どういった子』なのか詳しく話してくださいますわ。お父様も一度、屋敷の者達に訊ねるべきですわね。お継母様が杏樹にどれだけ我慢を強いていたのかを。きっと事細かく教えてくださいますわ」

「がまん? 我慢って何よ!杏樹は私の娘よ?私がお腹を痛めて産んだ子なんだから!!私の言う事を聞くのは当然でしょう!!!」

「お、おい……」

 母上の言葉に、父上は随分と驚いていた。姉上の眼差しがどんどん冷ややかになっていく。

「お継母様の考えはよく分かりました。お父様もこの方を見て『優しい母親』と言えますか?」

「そ、それは……」

「この方は、こうやって杏樹の意志を無視して、自分の思い通りにさせようとしてきたんです。この方の歪んだ考えを増長した責任はお父様にもありますわ。お父様がこの方の言う事をそのまま鵜呑みになさり続けたせいです。夫として妻の監督はしっかりとなさってください」

 姉上の叱責を受けた父は肩を落とした。
 巽家の当主とは思えない姿に私はただただ驚く他なかった。
 





 

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...