34 / 82
第一章
34.味方は姉上
しおりを挟む「聞き捨てなりませんわね」
「び、美娘……」
「これはどういうことですか?お父様。私はお継母様と楊圭の来訪は許可しておりませんわ。お父様一人だと伺っていたので許可を出しただけです。なのに、何故、杏樹が責められなければなりませんの?」
「だが……杏樹は……」
「お継母様の声は外にも漏れておりました。お父様も私と一緒に聞いた筈です。それなのに杏樹が虐めている?愚かしい。杏樹は正論を述べただけではありませんか」
私を庇うように両親と圭の前に立つ美娘姉上。
姉上の背中を見るとホッとしてしまう。母と違って父は私に対して怒ることはない。でも、先ほどのように母の味方をする。
『杏樹、母上を困らせてはいけない』
実家にいた頃、よく父上に言われた言葉。
愛妻家の父上らしいと言えばらしいのだけど、父は娘の私の言葉よりも母上の言葉を信じる傾向が強い。母上もそれを理解していた。そのせいか、私が自分の思い通りにならないと分かると何時も父上を引っ張りだしてきた。そして私を頷かせる。母はそれに満足し、父も母の様子を見て満足する。
私の味方は美娘姉上だけだった。
姉上は何時も、どんな時でも私の言葉を聞いてくれた。守ってくれた。
それは今も同じ――
「大体、何故、楊圭と陀姫のために杏樹が骨を折らなければならないのですか。幾ら楊圭と陀姫が婚姻したからと言って、二人が不義密通を犯し杏樹を裏切った事に変わりはありません」
「美娘……圭と陀姫は謝罪をした」
「当たり前です。寧ろ、たった一度の謝罪で許した杏樹の心の広さに対して深く感謝をするべきでしょう。罪を犯した罪人は刑罰で償いをするものですが、二人は杏樹に償いすらしていないではありませんか。それなのに、なんです。後宮にまで押しかけてこられて。私は聞いておりません」
「流石にそれは言い過ぎだろう。二人の事は事故のようなもの。両家に傷がつかぬようにするには、二人を婚姻させるしかなかったのだ……それは美娘も知っていよう」
「はい、存じていますわ。私も仕方なく二人の婚姻に賛同致しました。まさか、陀姫がこれほど早く懐妊するとは思いもよりませんでしたわ」
「二人は夫婦なのだ。懐妊も当然だろう」
「そういう意味ではないのですが……。楊圭、貴男はどうなのですか?」
「わ、私……ですか」
「ええ、お酒のせいで失敗してしまった件、とでも言えばいいのかしら。もっとも、それ以前から陀姫とは親密な関係だったようだけど、あの子に何か言われたのではなくて? 例えば『正室の娘ではない自分は杏樹に虐められている』、『側室の娘である自分は巽家では使用人にすら侮られている』、『蔑ろにされて婚約者すらいない』……そう涙目で言われたのではなくて?」
「っつ!!」
「その様子では図星のようね」
姉上の言葉に圭は覚えがあると言わんばかりの態度。それに姉上は呆れ返っていた。どうやら、私の知らない処で二人は関係を持っていたという事かしら。全然、気付かなかった。黙り込んでしまった圭に驚きを隠せないでいる父上とは反対に母上は平然としている。もしかして、母上は二人の仲を知っていた……?
1
お気に入りに追加
929
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる