後宮の右筆妃

つくも茄子

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第一章

34.味方は姉上

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「聞き捨てなりませんわね」

「び、美娘……」

「これはどういうことですか?お父様。私はお継母様と楊圭の来訪は許可しておりませんわ。お父様一人だと伺っていたので許可を出しただけです。なのに、何故、杏樹が責められなければなりませんの?」

「だが……杏樹は……」

「お継母様の声は外にも漏れておりました。お父様も私と一緒に聞いた筈です。それなのに杏樹が虐めている?愚かしい。杏樹は正論を述べただけではありませんか」

 私を庇うように両親と圭の前に立つ美娘姉上。
 姉上の背中を見るとホッとしてしまう。母と違って父は私に対して怒ることはない。でも、先ほどのように母の味方をする。

『杏樹、母上を困らせてはいけない』

 実家にいた頃、よく父上に言われた言葉。
 愛妻家の父上らしいと言えばらしいのだけど、父は娘の私の言葉よりも母上の言葉を信じる傾向が強い。母上もそれを理解していた。そのせいか、私が自分の思い通りにならないと分かると何時も父上を引っ張りだしてきた。そして私を頷かせる。母はそれに満足し、父も母の様子を見て満足する。

 私の味方は美娘姉上だけだった。

 姉上は何時も、どんな時でも私の言葉を聞いてくれた。守ってくれた。

 それは今も同じ――


「大体、何故、楊圭と陀姫のために杏樹が骨を折らなければならないのですか。幾ら楊圭と陀姫が婚姻したからと言って、二人が不義密通を犯し杏樹を裏切った事に変わりはありません」

「美娘……圭と陀姫は謝罪をした」

「当たり前です。寧ろ、たった一度の謝罪で許した杏樹の心の広さに対して深く感謝をするべきでしょう。罪を犯した罪人は刑罰で償いをするものですが、二人は杏樹に償いすらしていないではありませんか。それなのに、なんです。後宮にまで押しかけてこられて。私は聞いておりません」

「流石にそれは言い過ぎだろう。二人の事は事故のようなもの。両家に傷がつかぬようにするには、二人を婚姻させるしかなかったのだ……それは美娘も知っていよう」

「はい、存じていますわ。私も仕方なく二人の婚姻に賛同致しました。まさか、陀姫がこれほど早く懐妊するとは思いもよりませんでしたわ」

「二人は夫婦なのだ。懐妊も当然だろう」

「そういう意味ではないのですが……。楊圭、貴男はどうなのですか?」

「わ、私……ですか」

「ええ、お酒のせいで失敗してしまった件、とでも言えばいいのかしら。もっとも、それ以前から陀姫とは親密な関係だったようだけど、あの子に何か言われたのではなくて? 例えば『正室の娘ではない自分は杏樹に虐められている』、『側室の娘である自分は巽家では使用人にすら侮られている』、『蔑ろにされて婚約者すらいない』……そう涙目で言われたのではなくて?」

「っつ!!」

「その様子では図星のようね」

 姉上の言葉に圭は覚えがあると言わんばかりの態度。それに姉上は呆れ返っていた。どうやら、私の知らない処で二人は関係を持っていたという事かしら。全然、気付かなかった。黙り込んでしまった圭に驚きを隠せないでいる父上とは反対に母上は平然としている。もしかして、母上は二人の仲を知っていた……?

 

 

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