後宮の右筆妃

つくも茄子

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第一章

30.再試験1

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 その日、朝廷に激震が走った。

 ――十三歳から四十歳までの官吏に再試験を行う――

 
 耳が遠くなったのかな?
 それとも空耳?
 でも、周りを見れば皆ポカンとしてるから……私の聞き間違いではないみたい。再試験ってなに?
 
「このところ国家試験に受かったとは到底思えない者ばかりが官吏になっている。しかも、その者達が問題を起こしており、このままでは朝廷の品位にも関わる事態となっている」

 確かに最近ちょっと不祥事が続いたかも。だけど、それは今に始まったことではないと思うんだけど……。そう思ってるのは私だけじゃないはず。きっとこの場にいる全員が思ってることだと思うわ。案の定、官吏の一人が陛下に告げた。
 
「陛下、失礼ながら……それは今に始まったことではありません」
 
 すると他の官吏たちも同意見なのか、ウンウンと深く肯いた。
 ああ……やっぱり、みんな同じ考えだったのね。
 
「そうだな。だが、これはこれで問題があるのだ。試験で不正に合格するのは、実力が無い証拠だ。なのに何故官僚になる事を望むのか?」

 陛下、そんなこと言われても皆は返答し辛いわ。
 
 みんな仕事が欲しいんですよ。
 みんな立身出世を望むんですよ。
 みんな金持ちになりたんですよ。

 ……なんて、言えないわよね。
 
「陛下、申し上げます。我々は皆、試験に合格しました。しかし、その後不祥事を起こした者もおりましょう。だからと申して不正合格者という訳ではありません。仮にそういう者がいたとしても分かりません」

 一人の官吏の声を聞き、みんなが一斉に頷いた。きっと心の中で『そうだ、そうだ』と言ってそう。
 
「朕には理解出来ぬ。ならば問う。何故、実力もないものを部下に持たねばならぬ?本来、合格していた筈の者が合格できない状況を作っているのではないか。それに真に実力のある者は再試験を受けても合格する筈である。違うか?」

 ……確かに一理あるかもしれないけど……でも納得は出来ない筈よ。
 それにしても、どうして急にこんなことを言い出したのかしら?  試験の結果に不満があるにしては、あまりにも突然すぎるような気がする。

「朕の考えに変わらん」
 
「ですが、陛下。流石に四十歳の者に今更試験を受けさせた処で通りますでしょうか……流石に……」

 言い澱んでいる官吏の気持ちも分かる。若い世代なら兎も角、頭がカチカチになっている連中に再試験を受けさせた処で受かるとは思えない。そんな事は陛下自身も分かっている筈なのに。それなのに何の為に再試験を実行するの?
 
「確かに難しいであろうな」

 陛下はそう言ったきり、黙ってしまった。一度、私を見ると再び思考するかのように目を閉じた。もしかして、私の発言を待っているの?沈黙が痛い。

「恐れながら陛下、質問を宜しいでしょうか?」

 すると陛下は無言のままコクリと肯かれた。どうやら正解みたい。私は少しホッとした気分になる。

「畏れながら、先程のお言葉では陛下が再試験を実施されるのは四十歳より下の者とお考えになっておられるようでございますが、既に要職についている者も多くございましょう。その者達が落ちた場合は如何なさるおつもりですか」
 
 これが一番大事だったりする。
 仕事の出来ない人間が居なくなった処で誰も困らないけど、「出来る人」が居なくなると支障が出てくる。

「ふむ……。そうだな……。それはそれで困るであろうな。ならばこうしようではないか。四十歳から三十歳の者は試験の合否に関わらず今まで通りに仕事をしてもらう。勿論、合否によっては別の部署に異動する可能性は大いにあるがな。三十歳以下の者が不合格の場合は誰であろうとも解雇する」
 
 えっ!? 陛下、本気ですか!? 
 それ、三十歳以下の者達に酷すぎません?
 でもそんな事を言える雰囲気じゃない。みんな何も言わずに俯いてしまってる。仕方ないので私も大人しくしておこう。
 
「再試験は一ヶ月後に執り行う。それまでは通常通りの職務を全うせよ!」

 再試験に落ちたら即退職って……。本当に酷い……。

 
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