28 / 82
第一章
28.右筆妃3
しおりを挟む
皇宮の書庫への出入り。
それが、まさかこれほどの威力があるなんて思ってもみなかった。
「この書庫事態が特別なんだよ」
お茶をすすりながら呆れたように言う青に顔を向ける。
「でも、書庫よ。書庫に自由に出入りできるからってなんで『一番のお気に入り』になるの?」
これが分からない。
昼間は皇帝陛下と一緒に仕事をするけど、夜伽は皆無。陛下から宝飾品を貰った訳でもない。なのに「寵妃」扱い。疑問を口にしたら青から余計に呆れられてしまった。
「お前さ、この書庫の意味分かってるか?」
「意味? 書庫に意味なんてあるの?」
「マジかよ……。あのな、杏樹。この書庫が何処にあると思ってんだ。皇帝陛下の宮の敷地にある書庫だ。そんな所に誰が入る事が出来る?皇族でも入れない場所だぞ?」
「え……そうなの?」
「そ・う・な・の!」
「で、でも、ちょっと大げさ過ぎない?」
青は私の顔をまじまじと見て溜息をつくとお茶を飲む。私にも飲む様にすすめる。素直に従って飲めば喉の奥まで熱さが広がった後、爽やかな香が鼻を抜けていった。何だろう?柑橘系の匂い。
「杏樹」
改まった声で名を呼ばれて姿勢を正した。
何を言われるのか不安になってくる。こんな風に真面目な声で名前を呼ばれた事は数えるほどしかないのだ。大抵ろくでもない事を言われてきた記憶ばかりなので自然と身構えてしまう。
「お前、自分の置かれている立場分かっているよな?」
その質問は何度もされた。青だけでなく姉上からも。勿論、立場は分かっているつもりだ。なので青の質問の意図がよく分からなかった。無言のまま首を傾げるだけの私に青は小さく舌打ちをして続ける。
「まぁいいや。つまり、この建物に入れるのは陛下ただ一人なんだ。そして、ここは代々の皇帝達の為だけに用意された場所だ。『炎永王国の英知の結晶』と謳われている書庫だ。文官でさえも入る事は許されない。皇帝陛下の許しなくば、どんな立場の人間だろうと誰も入れない特別な場所。それをお前は陛下に許された。ここまで言えば俺が言いたい事くらい分かるだろう?」
「……うん」
「杏樹、大変なのはこれからだぞ。覚悟しておけ」
青の言葉にただただ頷くしかなかった。
皇帝に許可された書庫の書物はどれも貴重な品ばかり。
珍しいものも多く、異国の蔵書も数多い。知らなかった事を知るのが面白かった。実家でも手に入らない書物の数々に目を輝かせて手あたり次第読みふけった。皇帝陛下の右筆係の仕事を終えると真っ先に向かうのはこの書庫。夢中で周りが見えていなかった事を実感した。陛下が何処まで予想していたのかは知らないけれど、青の言う通り私は今や「皇帝第一の寵妃」だった。
それが、まさかこれほどの威力があるなんて思ってもみなかった。
「この書庫事態が特別なんだよ」
お茶をすすりながら呆れたように言う青に顔を向ける。
「でも、書庫よ。書庫に自由に出入りできるからってなんで『一番のお気に入り』になるの?」
これが分からない。
昼間は皇帝陛下と一緒に仕事をするけど、夜伽は皆無。陛下から宝飾品を貰った訳でもない。なのに「寵妃」扱い。疑問を口にしたら青から余計に呆れられてしまった。
「お前さ、この書庫の意味分かってるか?」
「意味? 書庫に意味なんてあるの?」
「マジかよ……。あのな、杏樹。この書庫が何処にあると思ってんだ。皇帝陛下の宮の敷地にある書庫だ。そんな所に誰が入る事が出来る?皇族でも入れない場所だぞ?」
「え……そうなの?」
「そ・う・な・の!」
「で、でも、ちょっと大げさ過ぎない?」
青は私の顔をまじまじと見て溜息をつくとお茶を飲む。私にも飲む様にすすめる。素直に従って飲めば喉の奥まで熱さが広がった後、爽やかな香が鼻を抜けていった。何だろう?柑橘系の匂い。
「杏樹」
改まった声で名を呼ばれて姿勢を正した。
何を言われるのか不安になってくる。こんな風に真面目な声で名前を呼ばれた事は数えるほどしかないのだ。大抵ろくでもない事を言われてきた記憶ばかりなので自然と身構えてしまう。
「お前、自分の置かれている立場分かっているよな?」
その質問は何度もされた。青だけでなく姉上からも。勿論、立場は分かっているつもりだ。なので青の質問の意図がよく分からなかった。無言のまま首を傾げるだけの私に青は小さく舌打ちをして続ける。
「まぁいいや。つまり、この建物に入れるのは陛下ただ一人なんだ。そして、ここは代々の皇帝達の為だけに用意された場所だ。『炎永王国の英知の結晶』と謳われている書庫だ。文官でさえも入る事は許されない。皇帝陛下の許しなくば、どんな立場の人間だろうと誰も入れない特別な場所。それをお前は陛下に許された。ここまで言えば俺が言いたい事くらい分かるだろう?」
「……うん」
「杏樹、大変なのはこれからだぞ。覚悟しておけ」
青の言葉にただただ頷くしかなかった。
皇帝に許可された書庫の書物はどれも貴重な品ばかり。
珍しいものも多く、異国の蔵書も数多い。知らなかった事を知るのが面白かった。実家でも手に入らない書物の数々に目を輝かせて手あたり次第読みふけった。皇帝陛下の右筆係の仕事を終えると真っ先に向かうのはこの書庫。夢中で周りが見えていなかった事を実感した。陛下が何処まで予想していたのかは知らないけれど、青の言う通り私は今や「皇帝第一の寵妃」だった。
1
お気に入りに追加
932
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる