後宮の右筆妃

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
24 / 82
第一章

24.地位5

しおりを挟む
 青の謝罪を受け入れた翌日、例の副官高力が菓子折り持ってやってきた。

「うちの長官がご迷惑をおかけしました」

 頭を下げて謝罪された。
 ダメな上司を持つ部下は苦労する典型だ。気の毒に。

「あの、もう謝罪は結構です」

「あのアホ……いえ、長官は手土産も持たずに伺ったとか……」

 今、アホって言ったよね? 気のせいではないよね?…………気にしないでおこう。私には関係ないことだ。うん、関係ない関係ない……。

「つまらないものですが、どうかお納めください」

 差し出された菓子折り。
 これで貸し借りなし。上司の無礼を許して欲しいといったところかな?私としてはその菓子折りの中身がとっても気になる。開けたら何が出てくるんだろう。そして貰っても大丈夫な物なの?

「そんなに気を遣わないでください」

 持って帰って!切実に言いたい。言えないけど。
 高力から差し出された通常よりも大きい箱が不安を隠せない。断りたい。でも断れない。仕方なく、入り口に控えていた侍女に目で合図をして、侍女に菓子折りを受け取らせた。うん。これで言い訳はたつ。私本人が受け取った訳ではない以上、もしも菓子折りの中身が賄賂のような代物だったとしても礼儀上仕方なかった、と言える。逃げ道って必要。


 その後、何故か高力と話す流れとなった。内容は監禁された時の状況。まぁ、詳しい話は青に直接言ったから内容は副官の彼も知っていたみたい。それでも聞いてくるところに青の信頼のなさが透けて見える。

「長官は並外れた頭脳の持ち主なのですが……そのなんと申しますか、自分が考えている事は相手も分かっていると思っている節があるんです。そのせいで何度も意思の疎通がうまくいかないことがありまして……」
 
「それは大変ですね……」
 
「御自分の頭の出来は理解していらっしゃるのですが……なんといいますか……。あ!いえ、こちらの話です!」

 そう言うと彼は慌てて誤魔化した。……この人は多分苦労人だ。主に青関係で。
 青が頭が良いのは分かる。天才型なんだろう。そのせいで周囲との摩擦があるんだと目の前の彼の言葉で何となく理解した。でも、私の所に謝りに来るだけでここまでする?なんだか釈然としない。
 この人、もしかして……。
 
「それで本日の御用向きの本当の理由はなんですか?」

 私の一言に一切の動揺が無かった。
 さっきまでの喜怒哀楽ぶりはなんだったのかと思う程に。
 髭と黒眼鏡で表情は分からんけれど話しぶりと態度で彼の心情が思いっきり反映していた。実に分かり易い人物だと思ったけど、どうやらその解釈は間違っていたみたい。
 
「さすが長官の見込んだお方。勘も良い」

 うわー。この人、青が前に言っていた『優秀な人材』に分類される側だわ。頭が切れるわけね。これは下手なこと言わない方がいいかも。……なんて思っていたけどすぐにバレた。そして色々聞かれた挙句に全部吐かされました。えぇ。隠し事なんか出来るはずなかったんですよ。だって頭の良い人の質問ってメチャクチャ答えにくい。ああ、この場合の「頭の良い」は「経験と実績を伴った」という枕詞がつくけど。誘導尋問に近いのにそうと思わせない口ぶりは流石だわ。青が負ける訳が分かった。ここは素直に従うのが正解。そんなことを考えている間に彼は満足そうに笑っている。顔は見えないけど雰囲気がそう。こんな芸当ができる人物は只者じゃない。
 やっぱり侮れない。気をつけよう……。


しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃
恋愛
ノースウッド皇国の第一皇女であり才気溢れる聖魔導師のアレクサは39歳花?の独身アラフォー真っ盛りの筈なのに、気がつけば9歳も年下の隣国ブランカフォルト王国へ王妃として輿入れする羽目になってしまった。 夫となった国王は文武両道、眉目秀麗文句のつけようがないイケメン。 しかし彼にはたった1つ問題がある。 それは無類の女好き。 妃と名のつく女性こそはいないが、愛妾だけでも10人、街娘や一夜限りの相手となると星の数程と言われている。 また愛妾との間には4人2男2女の子供も儲けているとか……。 そんな下半身にだらしのない王の許へ嫁に来る姫は中々おらず、講和条約の条件だけで結婚が決まったのだが、予定はアレクサの末の妹姫19歳の筈なのに蓋を開ければ9歳も年上のアラフォー妻を迎えた事に夫は怒り初夜に彼女の許へ訪れなかった。 だがその事に安心したのは花嫁であるアレクサ。 元々結婚願望もなく生涯独身を貫こうとしていたのだから、彼女に興味を示さない夫と言う存在は彼女にとって都合が良かった。 兎に角既に世継ぎの王子もいるのだし、このまま夫と触れ合う事もなく何年かすれば愛妾の子を自身の養子にすればいいと高をくくっていたら……。 連載中のお話ですが、今回完結へ向けて加筆修正した上で再更新させて頂きます。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

夫の心がわからない

キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。 夫の心がわからない。 初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。 本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。 というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。 ※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。 下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。 いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。 (許してチョンマゲ←) 小説家になろうさんにも時差投稿します。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...