後宮の右筆妃

つくも茄子

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第一章

15.包青side

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「――以上が報告になります」
 
 玉座の前で傅くと、皇帝陛下が静かに目を閉じた。そのまま沈黙が流れる。此度の件は相次ぐ女官の変死事件と一見関係がなさそうに見えるが恐らく繋がっている。陛下もその事に気付いていらっしゃる。だからこそ思案しているのだろう。

 毒物。
 無味無臭の猛毒が使われた可能性が極めて高い。
 それも銀でさえ反応しない代物。

 オレは静かに沙汰が下されるのを待つしかなかった。やがて陛下は目を開くと静かに口を開いた。

「下がれ。追って沙汰を言い渡す」
 
「……はっ」

 命じられるまま退出しようとしたところで、陛下に呼び止められた。
 
「包青、もう一つ頼まれてくれぬか?」

 珍しい。こんなことは初めてかもしれない。
 
「はい。どのような事でございましょうか?」
 
「私的な事になるが、そちは巽家の三女をどうするつもりだ?本当に市井に出すつもりか?」
 
 オレはその言葉を聞くなり、一瞬だけ返答が遅れてしまった。
 何故、そんなことを? オレは平静を装うことにした。
 
「はい。そのつもりです」
 
「ふむ……巽家直系の姫が庶民として暮らすのはなかなかに難しいだろう。苦労も多いはずだ。本人に覚悟があったとしても現実は厳しいものだ」
 
 それはオレも思わないではない。だが、これは本人の希望だ。
 だから仕方がない。
 いや、自由を欲する気持ちはオレにも分かる。あの娘にとって後宮も実家も窮屈この上ないものだ。己の居場所ではないのだろう。そういった思いは理解できた。オレも同じだからな。
 皇帝陛下の懸念も理解できる。
 だが、杏樹はああ見えて逞しい。その上、優秀だ。間者の真似事をさせてしまったが杏樹は情報を聞き出すのが上手い。何気ない世間話から掘り下げて聞き出してる。本人は無自覚だが確実に真相に近づいていた。だから、これ以上深入りしないように警告したが……どうだろうな。妙に鈍い処があるからな。

 
「でしたら、何かお考えでも?」

 思わず聞き返す。すると陛下は顎の髭を撫でながらこう言った。
 
「このまま後宮におればよいのではないか?」

 ――!!
 
「そ、それでは約束を反故することになります!!」

 声が裏返りそうになるのを抑えたせいか語気が強まってしまったようだ。しまったと思ったが遅かった。しかし、陛下はそんなことには全く気にもしていない様子だった。
 
「反故と言っても書面で交わした契約でもあるまい。まあ良い。この件に関しては朕にも考えがある。淑妃も朕に妹御の事は何も言ってこぬしな。しばらくは様子を見るとしよう。それでよいな、包青」
 
「……かしこまりました」
 
「下がるといい」

 陛下の命令通り、一礼をしてその場を後にした。
 そして扉を出てすぐに大きく息を吐き出した。額からは冷や汗が流れてくる。
 皇帝陛下は一体何を考えているんだ!? 



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