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第一章
10.巽淑妃(美娘)side
しおりを挟む祖父母亡き後、私の家族と言えるのは杏樹一人だけ。
そう言うと首を傾げる者が多いでしょうけど、実際、そうだったわ。
お父様は姉妹に格差をつける人ではなかったけれど、先妻の忘れ形見である私に強く言えない処がある。だからこそ「杏樹を侍女として後宮に連れて行きたい」と願い出ても反対されなかったし、心なしか安堵していた様子でもあった。悪い人ではない。けれど「良い父親」という訳でもなかった。どちらかというと放任主義的な処があり、基本は子供の好きな事をさせてくれる。それだけ聞けば「良い父親」でしょうけど……お父様の場合、無関心に近いものがあったわ。きっと本人は気付いていないでしょうけど。
子供が何か仕出かしても、そこに伴うであろう責任は負わない。家の事は基本「女人」がするもの。責任は当然、妻や母親が背負うものだと無意識に思っていそうだわ。
父と継母は親になってはいけない類の人種だった。
生母である側室を亡くし引き取った継子である陀姫を溺愛して、実の娘を邪険にするお継母様。そんなお継母様を諫める事もしないお父様。ご自分の妻と次女が親族から何と言われているか知らないのかしら?
きっと気付いてもいないでしょうね。
気付いたとしても気に留める方でもなさそうだわ。あの方はきっと、お継母様と同じ。自分中心に物事を考える人種。もう一人の異母妹の陀姫は彼らによく似た思考をしているわ。だからかしら……私はあの子を愛おしく思えないのは。
身分の低い側室の娘。
屋敷の一角に部屋を与えられていたとはいえ、使用人たちからも随分と侮られていたわ。そんな環境で育ったからでしょうね。継母にあからさまに媚びを売っていた。お継母様のお気に入りになりたい一心の行動。それが嫌でも透けて見えていたわ。正直気持ちが悪いとさえ思うほど。親族の多くも眉をひそめていたし、私自身も嫌悪したくらいだもの。
でも、お継母様は陀姫の媚びを売る態度が「甘え慕っている」と思ったようで、陀姫を甘やかしていたわね。見ている方が呆れる程、あからさま過ぎる媚びにも気付かない継母は巽一族からのただでさえ低い評価が更に低下してしまった。それは陀姫にもいえること。そのせいなのかしら?彼女は年々図々しくなってしまったわ。自分が杏樹より優位にいると思わせようと躍起になっていたのよ。それはもう滑稽でしかなかったわ。だって彼女よりも杏樹の方が優秀なんですもの。学問では敵うことなく、刺繍もお茶会の準備も何もかも杏樹は完璧だった。それにくらべて陀姫の評価は「平均並み」と使用人たちから陰口を叩かれる始末。お蔭で親族達も陀姫に辛辣だったわね。
私は杏樹に幸せになって欲しいの。
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