後宮の右筆妃

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
7 / 82
第一章

7.巽淑妃(美娘)side

しおりを挟む

 継母に釘を指しておいた後は、杏樹の縁談話は私とお父様で進めさせて貰っているわ。進めているといっても杏樹の気持ち次第。お父様は「杏樹が好きになった相手なら」と文に書いてくださっていたけれど、杏樹は恋愛とは程遠い子ですもの。自然に任せているだけでは嫁き遅れてしまうわ。


 手始めに名家の将来有望な若君との見合いをさせてみようと事前調査を開始したのはいいのだけれど……。


りゅう家の方はどうでしたか?」

「はい。柳家の御子息は現在二十九歳の御長男がいらっしゃいます。正室はいまだ娶られていませんが、数人の側室と庶子がいらっしゃいます」
 
「少し年が離れているわね。それに……殿方が妾を持つのは当たり前とはいえ、嫁ぎ先に既に妾と庶子がいる処は論外だわ。杏樹が苦労するのは目に見えるもの。ちょう家の嫡男はどうかしら?」

「はい。御年二十二歳、国家試験では上位十位内に入る程の秀才でございます。人柄も穏やかだと言われています。ご本人に問題は見受けられませんでした。ただ……」
 
「ただ?」

「張家はここ数年財政難に陥っているようです。また、当主の弟も浪費家で、金使いが荒いとの噂が……」
 
「まぁ……!」
 
「更に申し上げますと、当主の次男の素行にも問題があるとか……。これはあくまで噂ですが、女性関係の派手な御仁だと聞いております。後宮の方々からも評判は良くありません」
 
「そう……それは困ったわね……家はどうかしら?確か杏樹と近しい年頃の男子がいた筈なのだけれど」
 
「はい。李家の御子息で十九歳の若君がおいでになります。大変優秀な青年だとか。ただ……」
 
「あら?何か問題でもあるの?」
 
「いえ、特に問題という程のものではないのですが……どうやら市井の女人と恋仲らしく……婚姻の約束をされていらっしゃるようです。もっとも、本人達の口約束なので正式には婚約関係ではないと伺っておりますが……」
 
「なんですって!?そんな男に嫁いだら杏樹が不幸になってしまうわ!最悪、杏樹をお飾りの妻にしようと考えるかもしれない!白い結婚を敷いた挙句に「石女」扱い。その庶民の恋人に子でも出来ようものなら杏樹はますます蔑ろにされてしまうに違いないわ!!」

「しゅ、淑妃様!落ち着いてくださいませ!あくまでも噂ですから!!」
 
「……っ!……そうよね。少し取り乱してしまったわ」
 
「はい。淑妃様が御心配になられるお気持ちはよく分かります。ここは慎重に事を進めるべきかと」

 実家から連れてきた侍女頭の夏葉に諭され、落ち着きを取り戻した。私とした事が、冷静さを失ってしまうなんて失態だわ。
 しかし、杏樹を不幸にさせる訳にはいかない。杏樹は私にとって大切な家族なんだから。

「分かったわ。それならば他の候補を引き続き調べて頂戴」
 
「かしこまりました」

 私は夏葉を下がらせると深い溜息を吐いた。まさかこんな事態になるなんて予想外だったわ。まさか、ここまで問題だらけの御子息ばかりだったとは……。このまま縁談を進めても、杏樹を幸せにできるとは思えない。寧ろ不幸な結果にしかならないわ。
 ここは少し家格は劣っていても優秀で杏樹を大切にしてくれる殿方を探さなければならないわね。そうなると必然的に限られてしまうけれど仕方がないわね。
 
「はぁ……一体誰ならいいのかしら」

 私はまた一つ大きな溜息を吐いてしまった。



しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

非公開とさせていただきました(しばらくはお知らせのため残しますが、のちに削除いたします)

双葉
キャラ文芸
 キャラ文芸大賞に応募していた本作ですが、落選したため非公開とさせていただきました。夢である書籍化を目指して改稿し、別の賞へチャレンジいたします。  審査員の皆さま、読者として読んでくださった皆さま、ありがとうございました。

一番になれなかった身代わり王女が見つけた幸せ

矢野りと
恋愛
旧題:一番になれなかった私が見つけた幸せ〜誰かではなく、私はあなたを選びます〜 ――『後宮に相応しい華を献上せよ』 大国ローゼンの王妃が亡くなってから半年が経ったある日、周辺国へと通達が送られてきた。つまり国王の王妃または側妃となる者を求めていると。 各国の王家は新たな繋がりを得る機会だと色めきだった。 それは我が国も同じで、選ばれたのは婚約者がいない第二王女。 『……嫌です』 ポロポロと涙を流す可憐な第二王女を、愛しそうに見つめていたのは私の婚約者。 そして『なんで彼女なんだっ、あなたが行けばいいのにっ!』と彼の目は訴えていた。 ずっと前から気づいていた、彼が私を愛していないことぐらい。 でもまさか、私の妹を愛しているとは思ってもいなかった。そんな素振りは一度だって見せたことはなかったから。 ――『……第一王女である私が参ります』 この言葉に誰よりも安堵の表情を浮かべたのは、私の婚約者だった。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※内容があわない時はブラウザバックでお願いします。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

政略転じまして出会いました婚

ひづき
恋愛
花嫁である異母姉が逃げ出した。 代わりにウェディングドレスを着せられたミリアはその場凌ぎの花嫁…のはずだった。 女難の相があるらしい旦那様はミリアが気に入ったようです。

処理中です...