後宮の右筆妃

つくも茄子

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第一章

4.後宮4

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「おい!お前」

 突然声をかけられた。
 何事かと振り返ると、そこには見知らぬ男子がいた。
 私は思わず目を見張った。
 それほど、彼の容貌は目を引いた。

 褐色肌に瑠璃色の目、明らかに異国の血が流れている事が分かる容貌だった。その上、額には大きな三日月模様の傷がある。

 ……随分と痛そうな怪我だけど。

 ただならぬ様子に思わず眉根を寄せてしまった。
 
「……何か用?」

 不機嫌を隠しきれず低い声で尋ねる。初対面の相手に失礼な態度をとった自覚はあるけど、仕方のないことだ。後宮に男が来ること自体、異例中の異例なのだから。しかもこの態度。誰だって身構えるに決まっている。それに、相手の身分も定かではない。服装からして宦官ではないし……恐らく外から来たのだろう。身長は私と大して変わらない。きっと年齢も同じ位。他の妃の身内が濃厚だ。後宮に遊びに来た可能性が今のところ一番高い。

 こういう輩って結構、面倒くさかったりする。
 
「お前、名は何というのだ!?」

 人に名前を聞くなら先に名乗りなさいよ!
 何なの?
 
「…………杏樹」

 しぶしぶ答える。といっても下の名前だけ。家名まで名乗るとメンドクサイ事になりかねない。一応、美娘姉上淑妃の侍女という名目なのだ。

 彼は何故か満足げに口元に弧を描いた。
 
「ふぅん……良い名だな!」
 
「それは、どうも」
 
 素直に喜べない。名前を褒められただけなのに何故か微妙な気持ちになった。
 
「ところで杏樹。お前、女なのに何故書庫に居る?」

 ……ココに居る以上書物読むために決まっているでしょ。
 その前に私の手に有る書物が見えてないの?
 

「勿論、書物を読むためです」

「女が書物を読むのか!?」

「読むに決まっているでしょ!今だって読んでいたわよ!」

「ただ格好つけているだけじゃなく?」

「そんな事する筈ないでしょう!」

「だって……お前が持っている書物……法律関係だぞ? 女のお前が理解できるのか?」

 コイツ、もしかして喧嘩を売ってる?

 腹が立った私は書物を閉じると、第一章から最後までそらんじてみせた。男の呆気にとられた顔は実に見もので、胸がすっきりした。



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