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五十年前の「とある事件」
77.辺境伯視点1
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何故こんなことになったんだ?
戦争が終わり、妻の噂が誤解だと知り、私は心を入れ替えた。
妻に謝罪し、家族を大事にした。
これからの未来を一緒に考えようと思っていたのだ。
聖教国からの使者から「離縁なさってください」と言われた時は耳を疑った。
同行者の一人からは蔑むような目で「聖女候補を虐げていたくせに何を言っているのやら。この恥知らず」と罵られた。
使者とその一行は聖教国側の人間で、こちらの事情など一切考慮してくれない。
私は怒りを抑えながら離縁状にサインするしかなかった。
本当は離縁などしたくなかったのに。
聖女候補に危害を加える恐れがあるとされ、私は牢に収容された。
何故だ!?
私はこの国を守り抜いた辺境伯だぞ?
こんな扱いは理不尽すぎる!
『ありもしない悪評を鵜呑みにしてカタリナ嬢を虐げる方がよほどあり得ませんよ』
『しかも襲おうとしたとか。だからこうして再犯がないように収容してるんです』
『それでも改心するか分からないから王都の牢屋なんですよ。辺境伯領だと領民が貴方に手を貸して脱走させようと目論むかもしれませんからね。ここなら看守が監視してくれますし。丁度いいでしょう』
そう言って聖教国一行は嘲笑った。
後から知ったが、使者は「聖女」だったらしい。
牢の中は静かだ。
個室だから外の音が聞こえ辛いのかもしれない。
『地下牢じゃないだけマシでしょう』
本来なら地下牢行きだと使者が教えてくれた。
どうやら聖教国は私を罪人にしたいようだ。
一体私が何をしたというのだ!
妻に暴言を吐いたから?
『屋敷中でカタリナ嬢を虐げていたそうですね』
誤解だ!
いや、あれは誤解だったんだ。
噂を信じ切っていたせいで……だが謝ったじゃないか!!
『領民からも虐げられていましたよ』
彼らも悪気があったわけじゃない!
噂が。
そう、全て噂が悪いんだ。
『カタリナ嬢に治癒されても文句ばかり言ってたらしいじゃないですか』
それは戦争だからだ!
『聖女候補だと発覚しなければ死ぬまで働かされていたでしょう。色んな意味で』
猿轡を嵌められては弁明することもできなかった。
私はカタリナに謝罪した。
頭を下げて。
これまでの行いを反省したんだ。
屋敷の者達だって同じだ。
領民だって心から反省していた。
それ以上なにをしろと!?
王都の牢に入って数日、突然牢屋の扉が開かれた。
「!?」
コツ、コツ、と足音が聞こえる。
そして私の前に現れたのは……。
「王太子……殿下……」
王太子は私を静かに見下ろしている。
私は慌ててその場に跪いた。
「お、王太子殿下!この度は……っ」
「謝罪は無用だ」
「……へ?」
王太子の返答に耳を疑う。
いや、だって、私は……。
「そんなに難しいことを私はお前に頼んだか?」
「それは……その」
「まさかお前が自分の妻を虐げていたとはな。いや、違うか。直接手を下していたのは使用人だったな。だがお前は一切止めなかったらしいな」
「王太子殿下!私は……!!」
「言い訳は不要だ。何故だ。何故カタリナ嬢を大切にしなかった。私はお前に言ったはずだ。カタリナ嬢を頼むと。互いに望んだ結婚ではないが、信頼する辺境伯ならカタリナ嬢を大事にすると思っていたのに。失望したよ」
「……」
「国王陛下もお怒りだ」
「へ、陛下が!?」
その言葉に私は顔を上げた。
「当然だろう。王命での結婚だぞ。それを蔑ろにしたんだ。陛下も王家の尻拭いを辺境伯に任せて申し訳ないと言っていたのにな。だからこそ辺境伯領を優遇する措置を議会に提出したんだ。それなのにお前は」
王太子殿下の言葉に私は真っ青になった。
「まさかお前があんな噂に惑わされていたとは……。確かに詳しい説明をしなかったのは私の落ち度だ。だが言っただろう?悪いのは第二王子だと。王子有責での婚約破棄だと。妙な噂が立っているが真実ではない、と」
「あ……あ……」
「まさか確認せず鵜呑みにするとはな。王家の命令を何だと思っているんだ!王族の言葉がそんなに軽いのか!?お前はも、お前の領民達も!」
私は王太子殿下の言葉にただただ震えることしかできなかった。
戦争が終わり、妻の噂が誤解だと知り、私は心を入れ替えた。
妻に謝罪し、家族を大事にした。
これからの未来を一緒に考えようと思っていたのだ。
聖教国からの使者から「離縁なさってください」と言われた時は耳を疑った。
同行者の一人からは蔑むような目で「聖女候補を虐げていたくせに何を言っているのやら。この恥知らず」と罵られた。
使者とその一行は聖教国側の人間で、こちらの事情など一切考慮してくれない。
私は怒りを抑えながら離縁状にサインするしかなかった。
本当は離縁などしたくなかったのに。
聖女候補に危害を加える恐れがあるとされ、私は牢に収容された。
何故だ!?
私はこの国を守り抜いた辺境伯だぞ?
こんな扱いは理不尽すぎる!
『ありもしない悪評を鵜呑みにしてカタリナ嬢を虐げる方がよほどあり得ませんよ』
『しかも襲おうとしたとか。だからこうして再犯がないように収容してるんです』
『それでも改心するか分からないから王都の牢屋なんですよ。辺境伯領だと領民が貴方に手を貸して脱走させようと目論むかもしれませんからね。ここなら看守が監視してくれますし。丁度いいでしょう』
そう言って聖教国一行は嘲笑った。
後から知ったが、使者は「聖女」だったらしい。
牢の中は静かだ。
個室だから外の音が聞こえ辛いのかもしれない。
『地下牢じゃないだけマシでしょう』
本来なら地下牢行きだと使者が教えてくれた。
どうやら聖教国は私を罪人にしたいようだ。
一体私が何をしたというのだ!
妻に暴言を吐いたから?
『屋敷中でカタリナ嬢を虐げていたそうですね』
誤解だ!
いや、あれは誤解だったんだ。
噂を信じ切っていたせいで……だが謝ったじゃないか!!
『領民からも虐げられていましたよ』
彼らも悪気があったわけじゃない!
噂が。
そう、全て噂が悪いんだ。
『カタリナ嬢に治癒されても文句ばかり言ってたらしいじゃないですか』
それは戦争だからだ!
『聖女候補だと発覚しなければ死ぬまで働かされていたでしょう。色んな意味で』
猿轡を嵌められては弁明することもできなかった。
私はカタリナに謝罪した。
頭を下げて。
これまでの行いを反省したんだ。
屋敷の者達だって同じだ。
領民だって心から反省していた。
それ以上なにをしろと!?
王都の牢に入って数日、突然牢屋の扉が開かれた。
「!?」
コツ、コツ、と足音が聞こえる。
そして私の前に現れたのは……。
「王太子……殿下……」
王太子は私を静かに見下ろしている。
私は慌ててその場に跪いた。
「お、王太子殿下!この度は……っ」
「謝罪は無用だ」
「……へ?」
王太子の返答に耳を疑う。
いや、だって、私は……。
「そんなに難しいことを私はお前に頼んだか?」
「それは……その」
「まさかお前が自分の妻を虐げていたとはな。いや、違うか。直接手を下していたのは使用人だったな。だがお前は一切止めなかったらしいな」
「王太子殿下!私は……!!」
「言い訳は不要だ。何故だ。何故カタリナ嬢を大切にしなかった。私はお前に言ったはずだ。カタリナ嬢を頼むと。互いに望んだ結婚ではないが、信頼する辺境伯ならカタリナ嬢を大事にすると思っていたのに。失望したよ」
「……」
「国王陛下もお怒りだ」
「へ、陛下が!?」
その言葉に私は顔を上げた。
「当然だろう。王命での結婚だぞ。それを蔑ろにしたんだ。陛下も王家の尻拭いを辺境伯に任せて申し訳ないと言っていたのにな。だからこそ辺境伯領を優遇する措置を議会に提出したんだ。それなのにお前は」
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「まさかお前があんな噂に惑わされていたとは……。確かに詳しい説明をしなかったのは私の落ち度だ。だが言っただろう?悪いのは第二王子だと。王子有責での婚約破棄だと。妙な噂が立っているが真実ではない、と」
「あ……あ……」
「まさか確認せず鵜呑みにするとはな。王家の命令を何だと思っているんだ!王族の言葉がそんなに軽いのか!?お前はも、お前の領民達も!」
私は王太子殿下の言葉にただただ震えることしかできなかった。
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