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五十年前の「とある事件」

75.子爵視点2

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 婿入りした男が伯爵家を乗っ取った。
 その話しに子爵家は騒然となった。
 正当な跡取りであるカタリナを虐げていたことも発覚した。

 しかもそのカタリナは聖女候補として現在モンティーヌ聖教国にいるという。


「なんてことなの!」

 妻である子爵夫人は真っ青になって叫んだ。
 カタリナの悪評が払拭され、聖女候補であると知ってからは、子爵家もカタリナと親しく付き合いたいと考えていたのである。
 今まではちょっとした誤解ですれ違っていたから、これからは改めて親族付き合いをしていこうと思っていたところなのに。

「あなた!これは一体どういうことですの!?」

「……いや」

「……カタリナが聖教国へいるなんて……」

「あちらがカタリナを保護しているんだ。文句なんて言えないだろう」

「それではこの条件をのむというのですか!?」

 子爵家では到底払いきれない金額。
 妻が怒るのも無理はない。
 自分達が使い込んだわけじゃないというのに親族だというだけで払わされる理不尽。

 だが……。

「仕方がないだろう!この条件を呑まなければ一族全員奴隷にして売り払うとまで言われたのだ!!」

「……え?」

「枢機卿猊下が……そう言ったんだ」

「そんな……」

 愕然とする妻の心境は痛いほど分かる。だが、どうしようもない。弟と縁を切ることさえ許されないのだ。



『は?知らなかった?だからなに?少し考えたらおかしいと思うだろう。それとも面倒だから放置してたの?なら君達も同罪だ』

『なに被害者ぶってんだ。君の子爵家が不作をだした時に伯爵代理の弟に資金援助してもらってるよね。なんで弟に頼んだ?ここは、カタリナに願い出るものだろう?未成年だから何だって言うんだ。伯爵家の資産を使用する権利はカタリナにだけあるんだ。当時十五歳のカタリナに伝えて『お願いだからお金を恵んでくれ』と首を垂れてお願いするのが筋ってもんだ。それを棚上げしてよくもまぁ、そんな偉そうなことが言えるな』

『言っておくけど、君の弟達が豪遊した金は耳を揃えて返してもらうから。ああ、爵位を売ることはお勧めしないよ。王家に金なんてないから。二束三文で買い叩かれるのがオチだ。君達子爵家は子々孫々まで借金を払い続けろ。コツコツ支払うのが嫌なら僕が仕事を斡旋してあげるよ。君の弟家族は奴隷契約で、とある施設でお仕事してるから良かったら一緒の場所で働く?寄生虫のような連中にピッタリの職場だ。何もしなくていいんだから。ま、起き上がれなくなる場合もあるけど大勢の人達を救う新薬の治験者になれるんだ。名誉なことだろう?』

『ああ、そうそう。君の息子や娘は結構見られる容姿だから娼館の方が良いかな?この国の娼館はしょぼいから別の国を紹介するよ。君の息子は二十五歳と二十歳、娘は十七歳か。今すぐ働けるね。長男は妻子持ちか。子供は……五歳の男の子か。うん。幼い子供と一緒に娼館で働くのもありだ。需要が結構あるしね』

 恐ろしい話しだった。
 冗談だと笑い飛ばすことも出来ない内容だ。
 それを目の前の妻に話すことはできない。
 夜逃げも考えたが、あの悪魔のような枢機卿が逃してくれるとも思えない。

 一番無難なのは分割で支払うことだ。
 数世代は平民同然の暮らしになるが、それは仕方がない。




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