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五十年前の「とある事件」
74.子爵視点1
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伯爵家に婿入りした三男が捕まった。
正当な跡取りを虐待してお家乗っ取りを図った罪で。
知らせを受け、私は唖然とした。
「……そんな……」
まさか弟がそんな暴挙に出るなんて思いもしなかったからだ。
私の呆れ顔にゴールド枢機卿は肩を竦める。
「いや~~、驚いたよ。聖教国で保護したカタリナ嬢だけど、ずいぶん痩せ細っていたから。体罰の痕もあってね。調べたら食事を碌に与えられてなかったらしいよ。ああ、地下牢に収容されている子爵のもう一人の姪の方は大変ふくよかで、しばらく食事抜いても生きられそうなほど肥え太っていたよ。あれで義姉のカタリナ嬢が自分を虐めていたって吹聴してたんでしょう? はは。笑っちゃうよね。誰が見ても逆だろ?って分かりそうなのに。よほどの馬鹿か、愚か者しか信じない話しだよね。あ!ごめんごめん。そういえばこの国はその愚か者が多かったんだ。はははっ」
枢機卿の暴言に私は何も言えない。
まったくその通りだからだ。
ここ数年、弟と会うことすらなかった。
姪に関する悪い噂が流れてきた時も確認しなかった。
息子達も評判の悪いカタリナと親しくすることを拒否していたから。
噂を全部鵜呑みにしたわけじゃない。
先妻の死後すぐに弟が再婚した。多感な時期での再婚だ。カタリナが反発するのは当然だと思った。
なのにまさか正妻に内緒で囲っていた愛人と再婚していたとは……。
入婿だぞ?
よくもまぁそんな事ができたものだ。
呆れて物も言えない。
しかも連れ子は愛人との間に生まれた実子ってなんだ!?
「ま、終わった話しを蒸し返しても仕方ない。僕はこれからが大事だと思うんだ。子爵もそう思うだろう?」
「……は、はい。……もちろんです」
「よかった。じゃあ、これ渡しておくね」
そう言われて枢機卿から手渡された書類。
私はそれに目を通す。
「これは……?」
「決まっているじゃないか。君の弟君とその妻子が使い込んだ金額だよ。それ僕が立て替えておいたから、後からちゃんと請求するから」
「……は?立て替え?」
「そう。君の弟君とその家族が伯爵家の財産を好き勝手使った分の金だよ。本当は王家に立て替えてもらおうと思ったんだけどさ。戦後だからね。特別に枢機卿の僕が立て替えておいたよ。大丈夫!安心して。利子は取らないから」
「……」
私は言葉を失った。
立て替えた?枢機卿が? いや、そもそも立て替えるって……どういう? 私は書類にもう一度目を通し、そして驚愕した。
「な!こ、これは!?」
「ん?」
「……桁が……」
「あ~~」
枢機卿はニッコリ笑って頷いた。
「うん。そうだね。桁が違うね」
桁違いどころではない。桁なんてものじゃない。
ゼロがどれだけ並んでいるんだ!?
そんな金額を子爵家が立て替えるのか!? 無理だ!私は青ざめて首を横に振った。
「こ、このような金額は到底払えません。絶対に無理です!」
枢機卿相手に失礼を承知で訴えた。
しがない子爵家にこんな大金は出せない。
そう訴えたら、彼は「え~~」と言いながら頬を膨らませた。
見た目は愛らしい子供だが、実際は私なんかより遥かに年上だ。
その枢機卿はドスの利いた声で宣言する。
「何十年、何百年かかってでも絶対に支払って貰うぞ」
「……ひぃ!?」
「言っとくけどな、払えなかったら一族全員奴隷にして売り払うからな」
「そ、そんな……!」
「なに驚いているんだ?人の家の財産を盗んで好き勝手に使っておいてその責任を取らなくていいわけがない。むしろ、その金額は安い方だよ。普通ならカタリナ嬢への慰謝料と賠償金も請求するのが妥当だ。それを含めていない。この程度の金額で許されているんだから、感謝して欲しいくらいだ。ああ、安心していい。僕は通常の人間よりもずっと長生きだ。その分、長期間の借金返済も苦にはならない。よかったね」
「……」
私は絶句した。
この枢機卿は本気だ。
本気で言っている。
そして、それを実行できる力を持っている。
逃げられない!
私は真っ青になってガクガク震えながら頷いた。
「か、必ず、お支払いたします……」
「うん。よかった」
ニッコリ笑う彼に、私は神殿から逃げるように出て行った。
枢機卿の顔をまともに見れない……怖い!怖すぎる!
笑顔は逆に恐怖でしかなかった。
正当な跡取りを虐待してお家乗っ取りを図った罪で。
知らせを受け、私は唖然とした。
「……そんな……」
まさか弟がそんな暴挙に出るなんて思いもしなかったからだ。
私の呆れ顔にゴールド枢機卿は肩を竦める。
「いや~~、驚いたよ。聖教国で保護したカタリナ嬢だけど、ずいぶん痩せ細っていたから。体罰の痕もあってね。調べたら食事を碌に与えられてなかったらしいよ。ああ、地下牢に収容されている子爵のもう一人の姪の方は大変ふくよかで、しばらく食事抜いても生きられそうなほど肥え太っていたよ。あれで義姉のカタリナ嬢が自分を虐めていたって吹聴してたんでしょう? はは。笑っちゃうよね。誰が見ても逆だろ?って分かりそうなのに。よほどの馬鹿か、愚か者しか信じない話しだよね。あ!ごめんごめん。そういえばこの国はその愚か者が多かったんだ。はははっ」
枢機卿の暴言に私は何も言えない。
まったくその通りだからだ。
ここ数年、弟と会うことすらなかった。
姪に関する悪い噂が流れてきた時も確認しなかった。
息子達も評判の悪いカタリナと親しくすることを拒否していたから。
噂を全部鵜呑みにしたわけじゃない。
先妻の死後すぐに弟が再婚した。多感な時期での再婚だ。カタリナが反発するのは当然だと思った。
なのにまさか正妻に内緒で囲っていた愛人と再婚していたとは……。
入婿だぞ?
よくもまぁそんな事ができたものだ。
呆れて物も言えない。
しかも連れ子は愛人との間に生まれた実子ってなんだ!?
「ま、終わった話しを蒸し返しても仕方ない。僕はこれからが大事だと思うんだ。子爵もそう思うだろう?」
「……は、はい。……もちろんです」
「よかった。じゃあ、これ渡しておくね」
そう言われて枢機卿から手渡された書類。
私はそれに目を通す。
「これは……?」
「決まっているじゃないか。君の弟君とその妻子が使い込んだ金額だよ。それ僕が立て替えておいたから、後からちゃんと請求するから」
「……は?立て替え?」
「そう。君の弟君とその家族が伯爵家の財産を好き勝手使った分の金だよ。本当は王家に立て替えてもらおうと思ったんだけどさ。戦後だからね。特別に枢機卿の僕が立て替えておいたよ。大丈夫!安心して。利子は取らないから」
「……」
私は言葉を失った。
立て替えた?枢機卿が? いや、そもそも立て替えるって……どういう? 私は書類にもう一度目を通し、そして驚愕した。
「な!こ、これは!?」
「ん?」
「……桁が……」
「あ~~」
枢機卿はニッコリ笑って頷いた。
「うん。そうだね。桁が違うね」
桁違いどころではない。桁なんてものじゃない。
ゼロがどれだけ並んでいるんだ!?
そんな金額を子爵家が立て替えるのか!? 無理だ!私は青ざめて首を横に振った。
「こ、このような金額は到底払えません。絶対に無理です!」
枢機卿相手に失礼を承知で訴えた。
しがない子爵家にこんな大金は出せない。
そう訴えたら、彼は「え~~」と言いながら頬を膨らませた。
見た目は愛らしい子供だが、実際は私なんかより遥かに年上だ。
その枢機卿はドスの利いた声で宣言する。
「何十年、何百年かかってでも絶対に支払って貰うぞ」
「……ひぃ!?」
「言っとくけどな、払えなかったら一族全員奴隷にして売り払うからな」
「そ、そんな……!」
「なに驚いているんだ?人の家の財産を盗んで好き勝手に使っておいてその責任を取らなくていいわけがない。むしろ、その金額は安い方だよ。普通ならカタリナ嬢への慰謝料と賠償金も請求するのが妥当だ。それを含めていない。この程度の金額で許されているんだから、感謝して欲しいくらいだ。ああ、安心していい。僕は通常の人間よりもずっと長生きだ。その分、長期間の借金返済も苦にはならない。よかったね」
「……」
私は絶句した。
この枢機卿は本気だ。
本気で言っている。
そして、それを実行できる力を持っている。
逃げられない!
私は真っ青になってガクガク震えながら頷いた。
「か、必ず、お支払いたします……」
「うん。よかった」
ニッコリ笑う彼に、私は神殿から逃げるように出て行った。
枢機卿の顔をまともに見れない……怖い!怖すぎる!
笑顔は逆に恐怖でしかなかった。
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