悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

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五十年前の「とある事件」

73.謝罪は不要

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「申し訳ありませんでした。私どもの監督不届きです」

 王太子に頭を下げられても何も感じない。

「謝って許される問題ではありませんが……」

「そうですね」

 私の言葉に驚いたのか王太子が顔を上げる。
 王太子の後ろでは他の王族も驚いた顔をしていた。

「謝罪一つで許されるとでも?」

 私はニッコリ笑って言った。

「な……っ」

「何に驚くのです?当然ではありませんか」

「しかし……」

「そもそも、カタリナ嬢に酷い仕打ちをした張本人はあなた方でしょう?彼女は無理矢理従軍させられて力が枯渇するまで使い潰されたんですよ?なのに、彼女に治療してもらった人達がなんて言ったのかご存知?『もっと早く治療しろ』『悪女のお前を辺境伯夫人にしてやった恩を返せ』ですって?恩を仇で返し続けているのは、あなた方でしょうに」

「そ……それは……」

「だいたい、『辺境伯夫人として認めてやる』ってなんです?カタリナ嬢は王命に従って無理矢理辺境伯に嫁つがされた身。いわば被害者でしょう。ああ、なんでしたっけ、愛妾が産んだ第二王子の不始末の償いに王家が最も信頼している臣下に嫁がしたんでしたっけ。第二王子が根も葉もない噂をばら撒いたせいでカタリナ嬢は『悪女』扱い。彼女の名誉を回復しようともせずに、嫁がせるなんて王都から厄介払いしたと思われても仕方ないでしょうね。辺境伯の領民達はそう述べてますしね。『自分達は何も知らんかった』と。まぁ、カタリナ嬢の痩せ具合からどう見ても『悪女』なんて思えませんけど。虐待された少女にしか見えないというのに、この国の人間は目が悪いのかしら?眼医者を派遣しましょうか?王太子殿下」

「……」

「聖女になれる逸材だと知って慌てて名誉回復を行ったのでしょう?しかも第二王子の所業には一切触れていない。彼女を下女同然の扱いをしていた者達は軒並み手のひらを返した。謝ったからと言って何だというんです?誤って許されるとでも?そもそも、何故、被害者が誤った人に許しを与えなければならないのかしら?被害者の心の傷も考えずに許しを強要する。これもまた罪では?それとも国ぐるみで虐げていた者達にはそれさえも理解できないのかしら?どう思われます?私は何か間違ったことを言っているかしら?」

 王太子は青ざめて俯いていた。
 後ろの方で王家の面々も青い顔をしている。

 彼らは何も言わない。
 言えないわよね。
 だって、自分達の愚かしさを肯定するようなものだもの。

 第二王子はここにはいない。
 蟄居しているらしい。
 まぁ、自室に軟禁といったところでしょう。甘いわ。地下牢にでも放り込めばいいものを。

「カタリナ嬢は私と枢機卿の庇護下に入った以上、あなた方に彼女をどうこうする権利はありません」

「……っ」

「まぁ、彼女があなた方と会いたいと言えば話しは別ですが……。罵詈雑言のなかで寝る暇さえ与えられず働かされ続けていましたからね。カタリナ嬢が心を閉ざし、力を枯渇させたのも頷けますわ」

「な……っ!」

「だってそうでしょう?あなた方に虐げられ、蔑ろにされて、誰も助けてくれる人がいなかった。心を閉ざすしか自分を守る術がなかったんですよ、彼女は。無表情で何を考えているか分からないとほざいた愚者がいたようですが、過酷な環境で心を閉ざすしか生きる術がなかったんです。何故、それがお分かりにならないの?」

 王太子と王家の面々は今度こそ言葉を無くした。
 彼らは「信じられない」といった顔で呆然としている。
 自分達がカタリナ嬢に何をしてきたか、ようやく分かったようだ。

「あなた方は彼女を虐げてきた者達と同じです。彼女の心の傷を癒すことなど出来はしないでしょう。聖女の力を失わせる一歩手前まで追い込んだこの国にカタリナ嬢を返すことはできないわ。神殿を通して各国にもこの事は通達しておきましたので。これから色々と大変でしょうけど頑張ってくださいね」

「そんな……っ、ま……」

 王太子が何か言いかけたけれど、私は無視して踵を返した。

「カタリナ嬢はモンティーヌ聖教国の庇護下に入りました。大聖女の名のもとに、彼女を害する者は私が許しません」

 それだけ言うと私は転移魔法を発動させた。
 まったく……。
 言い訳ばかり並べて本当に謝る気はあるのかしら?
 まぁ、ああいう手合いは「謝罪したから新しい関係を築いていこう」とか言うんでしょうけど。
 カタリナ嬢が心を閉ざしたのも分かるわ。

 本当に腹の立つ国!



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