上 下
68 / 72
200年後

65.ゴールド枢機卿視点2

しおりを挟む
 
 モンティーヌ聖教国に滞在すること数週間。

 大河勇樹が僕に個人的に相談したいことがあると言ってきた。

「ゴールド枢機卿、折り入ってお話があります」

「なんだい?」

「はい。実は……」

 大河勇樹は言い難そうにしている。
 僕は彼が口を開くのをじっと待った。
 そして、ようやく口を開いた彼はこう言った。

「実は……その……このところ体が変というか……病気とかではないんです。ただ魔王討伐までの時と今とでは自分の体が全く違うというか……」

「魔王討伐でなにかあったの?」
「いえ、なにもありません。むしろ、恐ろしいくらいスムーズに倒すことができました。私としては魔王以外の魔物が現れたり罠を仕掛けられているのではないかと不安だったのですが……それもなく……」

 奥歯に物が挟まったような言い方だ。
 だが言いたいことは何となく分かる。
 彼は疑問を持っている。
 魔王討伐について。

 いるんだよね。
 こういう妙に勘のいい人間って。
 しかも彼は賢い。
 誰かれ構わず聞くのではなく、僕に聞いてくるところ、とかね。

 人として長く生きていたからか。
 いや、これは彼自身の性格かもしれない。
 フランにも聞かなかったのだろう。
 僕が千年生きていることを考慮しての質問だ。本当に頭の良い人間だ。

 さて、どう答えたものか。
 う~ん。
 誤魔化してもいいんだけど……彼はきっと納得しなさそうだ。

 表情を隠す事ができない彼のことだ。
 フランが気付く。

 はぁ。
 仕方ないなぁ。


「気になる事があるんだよね」

「はい」

「召喚だけじゃない。魔王討伐、それに君自身の体の変化。この場合、体が元に戻ってきた、と表現した方がいいのかな?」

「はい……徐々にですが……。これは一体、どういうことでしょうか?」


 ああ、やっぱりね。
 そうなる予感はしていた。

「答え合わせをしようか。フランも交えて」

「大聖女様もですか?」

「ああ」

「分かりました」

 僕はフランと大河勇樹に真実を告げることを決めた。
 フランも悶々としているだろうしね。

 この二人なら口外はしないだろう。


 

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

フェイタリズム

青春 / 連載中 24h.ポイント:398pt お気に入り:1

何度でも、あなたのためになら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:504pt お気に入り:3

こっちは遊びでやってんだ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:768pt お気に入り:0

ハーレムから逃げられた男

恋愛 / 完結 24h.ポイント:667pt お気に入り:115

萌ゆる門には福来たる

BL / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:8

何故ですか? 彼にだけ『溺愛』スキルが効きません!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,250pt お気に入り:31

優しい心を隠す彼と素直になれない私

恋愛 / 完結 24h.ポイント:305pt お気に入り:2

瓢箪独楽のショートショート

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:0

処理中です...