悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
62 / 82
200年後

59.黒髪の勇者視点1

しおりを挟む
 死んだ、と思った瞬間に光が溢れた。

「え?」

 思わず声が洩れる。
 なんだ?何が起きた?ここはどこだ?私は死んだんじゃ……?

「勇者様方、どうかこの世界を魔王の手からお救いください」

 そう言って頭を下げるのは白いローブを着た男たち。

「は?」

 勇者?今、そう言ったのか?誰がだ?私がか?
 いや待て。
 私だけじゃない。
 私の傍に子供たちがいる。
 彼らが勇者?

「勇者様方、どうか我らを魔王の手からお救いください」

 白いローブを着た男たち。
 見るからに聖職者たちだろう。
 その聖職者達が私達に頭を下げている。
 勇者?この子供たちが? いやいや、あり得ないだろう。

 というか、ここどこだ?


 その後、聖職者たちから詳しく説明を受けた。

 聞けば聞くほどファンタジーの世界だと実感した。
 しかも私も含めて全員老人が子供の姿に若返っていると言うじゃないか!
 原因はわからないが召喚の際に生じる現象らしい。
 なんだ、そのファンタジー。
 いやいや。元々異世界に召喚されているんだ。立派なファンタジーの世界だ。

 そして、魔王の存在。
 魔王の復活だと? まるでゲームだな。


「リアルゲーム世界」

「映画の世界だ」

 他の召喚された人達は興奮しっぱなしで現実を見てない。
 いや、もしかすると現実逃避しているのかも。
 まあ、気持ちはわかるが。

「つまり、魔王を倒さないと帰れないのか?」

「いいえ。倒したとしても帰れません」

「……」

「そもそも皆様は向こうの世界では死んだ人達です。帰る場所はもうどこにもありません」

 まあ、そうなるだろうな。
 私は入院していた。
 おそらく病状が悪化して死んだはず。
 となれば、帰ったところで骨だろう。

 そう考えると、彼らというか、この世界の聖職者たちはよく考えている。
 それとも召喚魔法を生みだした人がそういう人だったのだろうか?
 もう死んだ人間なら「元の世界にもどろう」とは考えにくい。
 生きている人というのはどうしても元の世界に戻りたくなるものだ。
 戻ったところで死者であるなら受け入れる人間は確率的に多いだろう。

 私がそう考えていた時だった。

 召喚された人達が騒ぎ出した。

「ふざけるなよ!」

「どういうことだよ!」

「死んだ人間だって!?元の世界には戻れないってどういうことだよ!」

 まあ、こうなるだろう。
 私も最初はそう思った。
 しかし、聖職者たちは彼らの言葉など聞こえてないかのように淡々と話を進める。
 いや、聞こえてはいるんだろうが、取り合わない。
 そして、説明は続く。
 魔王を倒すのは勇者様の役目であると。
 つまり私達がやるということだ。

「いやいやいやいや」

 思わず声が出てしまったが私は悪くないと思う。
 なに自分達に都合の良い理屈を言っているんだろうか。
 そんな話がまかり通るわけないだろう。
 それともアレか?
 自分達で自分の世界を守るという概念がないんだろうか?

 それは随分可哀想な話だ。







 聖職者と各国のお偉方と話をした結果、一応、軍は派遣してくれることになった。
 始めからそうすればいいのに、と思わなくもない。
 私を含めた男達はそれなりに戦争経験者だが、女達は戦いに出たことはないんだ。
 それに戦争経験者だといっても数十年も前の話だ。
 戦えるわけがない。

「勇者様方は、神様から強力な力を授かっていると伝えられております」

 聖職者たちはそう言っているが。
 鵜呑みにはできない。
 素人に毛が生えた位の私達にどうしろと言うんだ。

 それに戦闘経験と言っても銃が主体だ。
 剣を振るった戦いはしたことがない。

 念のため、私達の保証を契約書に盛り込んでもらった。

「勇者様方が亡くなるなど有りえない話です」

 聖職者たちは言う。
 どこまで信じればいいのか分からない。
 馬鹿みたいに「神の加護」だの「神の奇跡」だの「勇者の証」などと連呼する聖職者たちを見ていると、不安が増すばかりだ。
 神を信じるのは良い。
 それは人の勝手だ。
 ただそれを他人に強要するのはいただけない。


「勇者様方には神の加護があり、神の奇跡があるのです。どうか我らを魔王の脅威からお救いください」

 聖職者たちはそう言ったが、はっきり言って迷惑だし、信じられる要素が全く無かった。
 本当に勘弁してほしい。


しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。 気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。 そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。 家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。 そして妹の婚約まで決まった。 特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。 ※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。 ※えろが追加される場合はr−18に変更します。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

処理中です...