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100年後
47.シャルル王太子視点3
しおりを挟む「働かざる者食うべからずだ!王妃…いや、私の妻の考えは正しい」
「ですが!」
「お前は納得していなようだな」
「当然です!」
「だがな、よく考えてくれ。節約をして資産を残すのは当然の考えだ。収入源が途絶えた後では意味が無い。それならば今できる事をするべきだとは思わないか?」
父は私の肩に手を置いて真剣な表情をしていた。
その様子はとても嘘偽りを言うようには見えない。
しかしだ。
元王妃が使用人の真似事をするなど……。
「シャルル、私達はもう王族ではない。そしていずれは平民になる身なのだ」
「父上……」
「私が死んだ後もこの屋敷と資産は残る。だが資産だけで生きていく事はできない。使えば使う程なくなっていくからな。ならば、収入減を得るしかない。幸い、この屋敷は古いが、部屋数だけはある。宿として機能するに困る事もないはずだ」
「王家の別邸を宿にする気ですか?」
正気の沙汰とは思えない。
由緒ある城に見知らぬ旅人を招き入れるなど。
それも数日の間とはいえ、暮らさせると言うのだ。
「反対か?まぁ、まだ不安要素は多いからな。それにまだ決まった訳じゃない。そういった使い方もあるというだけの話だ」
「母上はその方向で動いているようですが……」
「彼女は行動的だからな。屋敷の敷地内で農園をやらないかと提案してきたくらいだ。もしかすると宿ではなく果樹園になるかもしれん。村の人に果実酒やジャムの作り方を教わっているらしい」
そう言えば先日村へ出かけた時も母上は楽しそうだった。
村でそんなことをしていたとは知らなかった。
「最近、料理の腕も上がってきている」
「元王妃が料理ですか」
「昨日は村人達に菓子を振る舞っていたぞ」
「いつの間に……」
「お前も村人達と交流を深めると良い。ここで骨を埋めるつもりならな。勿論、外で仕事をする事も反対はしない。お前の自由だ。今は私の補佐をしてくれているが、お前は領主にはなれない。その資格がないからな」
「分かっています」
父の跡を継ぐ事は無理だろう。
なにしろ一代限りの領主だ。
「文官になる事も厳しいだろう。武官も……な。元王太子という肩書は色々と問題だ。新政権の駒になるのは嫌だろう?」
あの一件で私の立場は一気に悪化してしまったと言っていい。
父上は私のために色々な手を回してくれたが無駄に終わったのだ。
「商人なら横やりは入らないだろう」
「父上は私が商人になる事をお望みで?」
「そうではない。そういう道もあるということだ」
「……」
「時間はまだある。ゆっくりと自分の将来を考えればいい。その権利をお前は手に入れたのだからな」
私は何も言えなかった。父の言っている意味は理解できる。
だが……。
何故か虚しい気持ちになるのを押さえられない。
母を見つめると笑顔を浮かべていた。まるで心配ないと言わんばかりの笑顔を。
そんな母を見ると胸が締め付けられる思いになった。
元王妃が平民に交じって仕事をしなければならない状況なのに、当の本人は楽しそうにしているのだ。複雑な気分にもなるだろう。
みっともないと思わないのだろうか?
王族の誇りは?
貴族としての矜持は?
何故、使用人風情に頭を下げて料理や掃除を習わなければならないのか。
私は母上の気持ちが解らない。
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