悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
49 / 82
100年後

47.シャルル王太子視点3

しおりを挟む
 
「働かざる者食うべからずだ!王妃…いや、私の妻の考えは正しい」

「ですが!」

「お前は納得していなようだな」

「当然です!」

「だがな、よく考えてくれ。節約をして資産を残すのは当然の考えだ。収入源が途絶えた後では意味が無い。それならば今できる事をするべきだとは思わないか?」

 父は私の肩に手を置いて真剣な表情をしていた。
 その様子はとても嘘偽りを言うようには見えない。
 しかしだ。
 元王妃が使用人の真似事をするなど……。

「シャルル、私達はもう王族ではない。そしていずれは平民になる身なのだ」

「父上……」

「私が死んだ後もこの屋敷と資産は残る。だが資産だけで生きていく事はできない。使えば使う程なくなっていくからな。ならば、収入減を得るしかない。幸い、この屋敷は古いが、部屋数だけはある。宿として機能するに困る事もないはずだ」

「王家の別邸を宿にする気ですか?」

 正気の沙汰とは思えない。
 由緒ある城に見知らぬ旅人を招き入れるなど。
 それも数日の間とはいえ、暮らさせると言うのだ。

「反対か?まぁ、まだ不安要素は多いからな。それにまだ決まった訳じゃない。そういった使い方もあるというだけの話だ」

「母上はその方向で動いているようですが……」

「彼女は行動的だからな。屋敷の敷地内で農園をやらないかと提案してきたくらいだ。もしかすると宿ではなく果樹園になるかもしれん。村の人に果実酒やジャムの作り方を教わっているらしい」

 そう言えば先日村へ出かけた時も母上は楽しそうだった。
 村でそんなことをしていたとは知らなかった。

「最近、料理の腕も上がってきている」

「元王妃が料理ですか」

「昨日は村人達に菓子を振る舞っていたぞ」

「いつの間に……」

「お前も村人達と交流を深めると良い。ここで骨を埋めるつもりならな。勿論、外で仕事をする事も反対はしない。お前の自由だ。今は私の補佐をしてくれているが、お前は領主にはなれない。その資格がないからな」

「分かっています」

 父の跡を継ぐ事は無理だろう。
 なにしろ一代限りの領主だ。

「文官になる事も厳しいだろう。武官も……な。元王太子という肩書は色々と問題だ。新政権の駒になるのは嫌だろう?」

 あの一件で私の立場は一気に悪化してしまったと言っていい。
 父上は私のために色々な手を回してくれたが無駄に終わったのだ。

「商人なら横やりは入らないだろう」

「父上は私が商人になる事をお望みで?」

「そうではない。そういう道もあるということだ」

「……」

「時間はまだある。ゆっくりと自分の将来を考えればいい。その権利をお前は手に入れたのだからな」

 私は何も言えなかった。父の言っている意味は理解できる。
 だが……。

 何故か虚しい気持ちになるのを押さえられない。

 母を見つめると笑顔を浮かべていた。まるで心配ないと言わんばかりの笑顔を。
 そんな母を見ると胸が締め付けられる思いになった。

 元王妃が平民に交じって仕事をしなければならない状況なのに、当の本人は楽しそうにしているのだ。複雑な気分にもなるだろう。

 みっともないと思わないのだろうか?
 王族の誇りは?
 貴族としての矜持は?

 何故、使用人風情に頭を下げて料理や掃除を習わなければならないのか。
 私は母上の気持ちが解らない。





しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

処理中です...