34 / 82
100年後
32.閑話1
しおりを挟む
それは偶然だった。
誉れある六人のうちに選ばれたゴールド枢機卿猊下がその国に足を運んだのは。
今では死に体と化した、ロベール王国。
その国の元公爵領。独立してモンティーヌ公国となった国から『大聖女』が誕生し、『モンティーヌ聖王国』と名乗りだしていた頃だ。そこの『同僚』から依頼を受けたのが始まりだった。
何でも、幻術使いを探しているというのだ。
最初は断ろうとした。
幾ら『同僚』の頼みとはいえ、枢機卿猊下に「お願い」をするなど以ての外だったからだ。だが、何の気まぐれか猊下本人がその依頼を受けた。そう……受けてしまわれたのだ。
「猊下、何故お受けになったのです?」
「決まっている。金払いが良いからだ」
即答だった。
この方は金にがめつい。
『世の中、金だ!!』
と、恥ずかしげもなく言い放つくらい金に執着している。
枢機卿と兼業で「高利貸し」を営んでいるのがいい証拠だ。
神殿もゴールド枢機卿の秘密の家業を知っていながら知らないフリを決め込んでいる。世間にバレても見た目幼児の枢機卿を怪しむ者はいないと踏んでいるのだろう。浅はかな。彼らはゴールド枢機卿を甘く見ている。
この枢機卿なら、彼らに罪を被せて一人逃げることくらい平気でする方だ。それどころか見た目幼児の姿を利用して「神殿にとらわれた憐れな幼児」を擬態するくらい訳ないというのに。神殿はゴールド枢機卿を今一つ理解していない。
当時、ゴールド枢機卿は「高利貸し屋のインテレス」から「銀行家のバンコ」にチェンジするために動き始めた矢先であった。
ここ数十年の間に神殿は腐敗の一途をたどっている。
王族や貴族たちに便宜を図り特権を得ている神殿が各国に多くあった。
ロベール王国は王都に神殿を置いていなかったせいか、腐敗神殿とは言われていない。私も何度か滞在したことがあるが、清廉な空気を保っていたのを覚えている。場所がモンティーヌ公爵領にあったためか、それとも別の意図があるのかは分からないが、ロベール王国とは縁を切ってモンティーヌ公爵に尽き従ったとは聞いていた。
そこからの打診。それも死体の偽装だ。
「本当に受けるのですか?」
「当たり前だろ!一回の仕事でこの金額だ!!受けないのはバカのすること!!」
あまりの金払いのよさに屈した。
「それにこれは人助けだろう!」
幽閉同然の奥方を、それも愛人に殺されかかった大聖女の親友を助けるという依頼。
確かに一見人助けだ。金品が絡まなければ。
「いや~~~。あの大聖女は話がわかる!」
珍しく。
本当に珍しい。
この枢機卿が他人を褒めるなど……。
大聖女とは不思議なほど馬が合った。
枢機卿と話があう人間がこの世にいた事自体に驚いた。
なんでも、「タダより高い物はない」と大聖女は言ったらしい。
あぁ、金の亡者と話が合うはずだ。
少なくとも、神殿の神官たちのように「神のため」「世界のため」などと綺麗ごとを口にしながらタダ働きを枢機卿に強要しないだけましだと思えた。
大聖女の親友を助けて以来、プライベートでも親しくなった。
そのお陰か、ゴールド枢機卿は昔に比べると随分丸くなった。相変わらず金への執着はブレないが……。
誉れある六人のうちに選ばれたゴールド枢機卿猊下がその国に足を運んだのは。
今では死に体と化した、ロベール王国。
その国の元公爵領。独立してモンティーヌ公国となった国から『大聖女』が誕生し、『モンティーヌ聖王国』と名乗りだしていた頃だ。そこの『同僚』から依頼を受けたのが始まりだった。
何でも、幻術使いを探しているというのだ。
最初は断ろうとした。
幾ら『同僚』の頼みとはいえ、枢機卿猊下に「お願い」をするなど以ての外だったからだ。だが、何の気まぐれか猊下本人がその依頼を受けた。そう……受けてしまわれたのだ。
「猊下、何故お受けになったのです?」
「決まっている。金払いが良いからだ」
即答だった。
この方は金にがめつい。
『世の中、金だ!!』
と、恥ずかしげもなく言い放つくらい金に執着している。
枢機卿と兼業で「高利貸し」を営んでいるのがいい証拠だ。
神殿もゴールド枢機卿の秘密の家業を知っていながら知らないフリを決め込んでいる。世間にバレても見た目幼児の枢機卿を怪しむ者はいないと踏んでいるのだろう。浅はかな。彼らはゴールド枢機卿を甘く見ている。
この枢機卿なら、彼らに罪を被せて一人逃げることくらい平気でする方だ。それどころか見た目幼児の姿を利用して「神殿にとらわれた憐れな幼児」を擬態するくらい訳ないというのに。神殿はゴールド枢機卿を今一つ理解していない。
当時、ゴールド枢機卿は「高利貸し屋のインテレス」から「銀行家のバンコ」にチェンジするために動き始めた矢先であった。
ここ数十年の間に神殿は腐敗の一途をたどっている。
王族や貴族たちに便宜を図り特権を得ている神殿が各国に多くあった。
ロベール王国は王都に神殿を置いていなかったせいか、腐敗神殿とは言われていない。私も何度か滞在したことがあるが、清廉な空気を保っていたのを覚えている。場所がモンティーヌ公爵領にあったためか、それとも別の意図があるのかは分からないが、ロベール王国とは縁を切ってモンティーヌ公爵に尽き従ったとは聞いていた。
そこからの打診。それも死体の偽装だ。
「本当に受けるのですか?」
「当たり前だろ!一回の仕事でこの金額だ!!受けないのはバカのすること!!」
あまりの金払いのよさに屈した。
「それにこれは人助けだろう!」
幽閉同然の奥方を、それも愛人に殺されかかった大聖女の親友を助けるという依頼。
確かに一見人助けだ。金品が絡まなければ。
「いや~~~。あの大聖女は話がわかる!」
珍しく。
本当に珍しい。
この枢機卿が他人を褒めるなど……。
大聖女とは不思議なほど馬が合った。
枢機卿と話があう人間がこの世にいた事自体に驚いた。
なんでも、「タダより高い物はない」と大聖女は言ったらしい。
あぁ、金の亡者と話が合うはずだ。
少なくとも、神殿の神官たちのように「神のため」「世界のため」などと綺麗ごとを口にしながらタダ働きを枢機卿に強要しないだけましだと思えた。
大聖女の親友を助けて以来、プライベートでも親しくなった。
そのお陰か、ゴールド枢機卿は昔に比べると随分丸くなった。相変わらず金への執着はブレないが……。
226
お気に入りに追加
4,025
あなたにおすすめの小説
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです
サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる