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100年後

32.閑話1

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 それは偶然だった。
 誉れある六人のうちに選ばれたゴールド枢機卿猊下がその国に足を運んだのは。

 今では死に体と化した、ロベール王国。
 その国の元公爵領。独立してモンティーヌ公国となった国から『大聖女』が誕生し、『モンティーヌ聖王国』と名乗りだしていた頃だ。そこの『同僚』から依頼を受けたのが始まりだった。

 何でも、幻術使いを探しているというのだ。
 最初は断ろうとした。
 幾ら『同僚』の頼みとはいえ、枢機卿猊下に「お願い」をするなど以ての外だったからだ。だが、何の気まぐれか猊下本人がその依頼を受けた。そう……受けてしまわれたのだ。

「猊下、何故お受けになったのです?」

「決まっている。金払いが良いからだ」

 即答だった。
 この方は金にがめつい。

『世の中、金だ!!』

 と、恥ずかしげもなく言い放つくらい金に執着している。

 枢機卿と兼業で「高利貸し」を営んでいるのがいい証拠だ。
 神殿もゴールド枢機卿の秘密の家業を知っていながら知らないフリを決め込んでいる。世間にバレても見た目幼児の枢機卿を怪しむ者はいないと踏んでいるのだろう。浅はかな。彼らはゴールド枢機卿を甘く見ている。
 この枢機卿なら、彼らに罪を被せて一人逃げることくらい平気でする方だ。それどころか見た目幼児の姿を利用して「神殿にとらわれた憐れな幼児」を擬態するくらい訳ないというのに。神殿はゴールド枢機卿を今一つ理解していない。

 

 当時、ゴールド枢機卿は「高利貸し屋のインテレス」から「銀行家のバンコ」にチェンジするために動き始めた矢先であった。

 ここ数十年の間に神殿は腐敗の一途をたどっている。
 王族や貴族たちに便宜を図り特権を得ている神殿が各国に多くあった。
 ロベール王国は王都に神殿を置いていなかったせいか、腐敗神殿とは言われていない。私も何度か滞在したことがあるが、清廉な空気を保っていたのを覚えている。場所がモンティーヌ公爵領にあったためか、それとも別の意図があるのかは分からないが、ロベール王国とは縁を切ってモンティーヌ公爵に尽き従ったとは聞いていた。

 そこからの打診。それも死体の偽装だ。


 
「本当に受けるのですか?」

「当たり前だろ!一回の仕事でこの金額だ!!受けないのはバカのすること!!」

 あまりの金払いのよさに屈した。

「それにこれは人助けだろう!」

 幽閉同然の奥方を、それも愛人に殺されかかった大聖女の親友を助けるという依頼。
 確かに一見人助けだ。金品が絡まなければ。

「いや~~~。あの大聖女は話がわかる!」

 珍しく。
 本当に珍しい。
 この枢機卿が他人を褒めるなど……。
 大聖女とは不思議なほど馬が合った。
 枢機卿と話があう人間がこの世にいた事自体に驚いた。

 なんでも、「タダより高い物はない」と大聖女は言ったらしい。
 あぁ、金の亡者と話が合うはずだ。
 少なくとも、神殿の神官たちのように「神のため」「世界のため」などと綺麗ごとを口にしながらタダ働きを枢機卿に強要しないだけましだと思えた。

 大聖女の親友を助けて以来、プライベートでも親しくなった。
 そのお陰か、ゴールド枢機卿は昔に比べると随分丸くなった。相変わらず金への執着はブレないが……。
 


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