悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
30 / 82
20年後

29.王太子視点

しおりを挟む
「王太子殿下、お帰りなさいませ」

「ああ」

「公爵様の御様子は如何でしたか?」

「自分が何をしたのか理解していなかった」

「それはまた……」

「公爵もそうだが、国王陛下もレオーナ様の価値を全く理解していなかった」

「やはりそうでしたか。では……」

「レオーナ様が描く絵の価値を知らない。彼らにとっては『綺麗な絵』としか捉える事はできなかったのだろう」

「国王陛下方を責めることはできません」

「ああ、我々も知らなかった。枢機卿猊下に言われるまでな。情けない話だ」

 『祝福を受けし者』の存在は伝説とされている。
 それはそうだろう。
 一生に一度会えるかどうか分からない相手だ。
 世界の大半の人間は神話時代の話だと思っている。

 その上、『祝福を受けし者』の『加護を受けた者』など更に希少性が高い。
 そんな存在がいる事自体信じられない。まさかその存在がレオーナ様だったとは。

「幸運を運んでくる絵、悪しきものを滅する絵。描き手であるレオーナ様が亡くなった以上は残っている絵は全て神殿に寄付する事が決まった」
 
「宜しいのですか?」
 
「どれが『幸運の絵』なのか誰も鑑定できない状況だ。中には真逆の『不幸を呼ぶ絵』がないとも限らない。下手に国に置いて何らかの災いが怒らないとも限らないからな」
 
「そうですか」

「残念だが仕方ない。レオーナ様はこの国に殺されたようなものだ。幸運を運んでくる絵ばかりを描き残してはいないだろう」
 
「……はい」

 引き取り先はビンチ枢機卿の神殿だ。
 芸術をこよなく愛するかの人なら悪いようにはされないだろう。





 神殿から破門宣告をされたからといって、国が滅ぶ訳ではない。
 それでも王家は権威を失い、周辺国から失笑と侮蔑を受けながらも何とか国の舵取りを行っていた。
 
 最初の異変は、とある侯爵家のメイドからだった。
 メイドはある日急に苦しみだし、高熱に魘されること十日後、息を引き取った。

 次は伯爵家の庭師だ。
 庭園の手入れ中に倒れてそのまま帰らぬ人となった。

 その次はとある子爵家の次男だ。
 何の前触れもなく原因不明の病を発症し亡くなった。
 
 その後も次々と人が急死していく。
 
 最初は流行り病かと思われた。
 だが、平民達はいつも通りの生活をしている。
 貴族の極一部の者だけが次々に謎の病に倒れていったのだ。
 ある者は心臓麻痺を起こし、ある者は突然苦しみ出して泡を吹きながら悶死した。
 一体何故こんな事が起こっているのか? 貴族達の間で噂が流れ始めた。
 

 
「それは本当か?!」

「はい、調査の結果、亡くなった者達には共通点がございました。全員がランジェリオン公爵家に以前勤めていた者達です。しかもレオーナ様の絵を所持しておりました」

「何故、レオーナ様の絵を?」

「分かりません。家族の誰も絵の事は知らなかったようです」

「レオーナ様が贈ったとは考えられないな。公爵も使用人に絵を贈るタイプじゃない。となると、盗んだのか?」
 
「恐らく」
 
「絵を持っていた者が謎の死を遂げたということか。まさか、あの絵が原因だというのか?」
 
「まだ断定はできませんが可能性は高いと思われます」
 
「まさか…………」
 
「調査を続けさせておりまが恐らく何も出てこないでしょう」
 
「その絵を撤収できるか?」
 
「可能です」
 
「ならば至急頼む」
 
「畏まりました」

 それから数日後、絵の撤収が完了した。
 回収した絵を調べたが特に変わったところはなかった。ただの偶然ではない。狙ったかのように公爵家の元使用人たちばかりだ。

 レオーナ様の絵はビンチ枢機卿に献上し神殿に保管されることになった。


 だから知らなかった。
 まさかレオーナ様の絵を盗んだ者が他にもいた事を。

 それが公爵の愛人であった女性だとは――――

 かの女性ミリアリアは恋人の公爵とは別の男と結婚した。
 実家の命令か、それとも落ち目となった公爵に見切りをつけたのかは分からない。
 だが彼女の結婚相手は他国の羽振りの良い貴族だった。
 彼女は結婚して暫くすると未亡人となった。事業に失敗した夫は多額の借金を苦にしての自殺だった。夫の借金のカタとして彼女は娼館へと売られていった。その後の行方は分からない。庇護欲をそそる容姿であるものの、美貌の持ち主という訳でもなく、若さも失っている彼女がどのような扱いを受けてきたのか想像できるというものだ。流れ着いた先は地獄だろう。

 一人の女のせいで、国は衰退の道をゆっくりと歩んでいる。
 あの女が死んだという知らせは届かない。
 長く苦しんで死んでくれ。そう願わずにはいられなかった。


しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。 気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。 そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。 家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。 そして妹の婚約まで決まった。 特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。 ※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。 ※えろが追加される場合はr−18に変更します。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...