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20年後
29.王太子視点
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「王太子殿下、お帰りなさいませ」
「ああ」
「公爵様の御様子は如何でしたか?」
「自分が何をしたのか理解していなかった」
「それはまた……」
「公爵もそうだが、国王陛下もレオーナ様の価値を全く理解していなかった」
「やはりそうでしたか。では……」
「レオーナ様が描く絵の価値を知らない。彼らにとっては『綺麗な絵』としか捉える事はできなかったのだろう」
「国王陛下方を責めることはできません」
「ああ、我々も知らなかった。枢機卿猊下に言われるまでな。情けない話だ」
『祝福を受けし者』の存在は伝説とされている。
それはそうだろう。
一生に一度会えるかどうか分からない相手だ。
世界の大半の人間は神話時代の話だと思っている。
その上、『祝福を受けし者』の『加護を受けた者』など更に希少性が高い。
そんな存在がいる事自体信じられない。まさかその存在がレオーナ様だったとは。
「幸運を運んでくる絵、悪しきものを滅する絵。描き手であるレオーナ様が亡くなった以上は残っている絵は全て神殿に寄付する事が決まった」
「宜しいのですか?」
「どれが『幸運の絵』なのか誰も鑑定できない状況だ。中には真逆の『不幸を呼ぶ絵』がないとも限らない。下手に国に置いて何らかの災いが怒らないとも限らないからな」
「そうですか」
「残念だが仕方ない。レオーナ様はこの国に殺されたようなものだ。幸運を運んでくる絵ばかりを描き残してはいないだろう」
「……はい」
引き取り先はビンチ枢機卿の神殿だ。
芸術をこよなく愛するかの人なら悪いようにはされないだろう。
神殿から破門宣告をされたからといって、国が滅ぶ訳ではない。
それでも王家は権威を失い、周辺国から失笑と侮蔑を受けながらも何とか国の舵取りを行っていた。
最初の異変は、とある侯爵家のメイドからだった。
メイドはある日急に苦しみだし、高熱に魘されること十日後、息を引き取った。
次は伯爵家の庭師だ。
庭園の手入れ中に倒れてそのまま帰らぬ人となった。
その次はとある子爵家の次男だ。
何の前触れもなく原因不明の病を発症し亡くなった。
その後も次々と人が急死していく。
最初は流行り病かと思われた。
だが、平民達はいつも通りの生活をしている。
貴族の極一部の者だけが次々に謎の病に倒れていったのだ。
ある者は心臓麻痺を起こし、ある者は突然苦しみ出して泡を吹きながら悶死した。
一体何故こんな事が起こっているのか? 貴族達の間で噂が流れ始めた。
「それは本当か?!」
「はい、調査の結果、亡くなった者達には共通点がございました。全員がランジェリオン公爵家に以前勤めていた者達です。しかもレオーナ様の絵を所持しておりました」
「何故、レオーナ様の絵を?」
「分かりません。家族の誰も絵の事は知らなかったようです」
「レオーナ様が贈ったとは考えられないな。公爵も使用人に絵を贈るタイプじゃない。となると、盗んだのか?」
「恐らく」
「絵を持っていた者が謎の死を遂げたということか。まさか、あの絵が原因だというのか?」
「まだ断定はできませんが可能性は高いと思われます」
「まさか…………」
「調査を続けさせておりまが恐らく何も出てこないでしょう」
「その絵を撤収できるか?」
「可能です」
「ならば至急頼む」
「畏まりました」
それから数日後、絵の撤収が完了した。
回収した絵を調べたが特に変わったところはなかった。ただの偶然ではない。狙ったかのように公爵家の元使用人たちばかりだ。
レオーナ様の絵はビンチ枢機卿に献上し神殿に保管されることになった。
だから知らなかった。
まさかレオーナ様の絵を盗んだ者が他にもいた事を。
それが公爵の愛人であった女性だとは――――
かの女性は恋人の公爵とは別の男と結婚した。
実家の命令か、それとも落ち目となった公爵に見切りをつけたのかは分からない。
だが彼女の結婚相手は他国の羽振りの良い貴族だった。
彼女は結婚して暫くすると未亡人となった。事業に失敗した夫は多額の借金を苦にしての自殺だった。夫の借金のカタとして彼女は娼館へと売られていった。その後の行方は分からない。庇護欲をそそる容姿であるものの、美貌の持ち主という訳でもなく、若さも失っている彼女がどのような扱いを受けてきたのか想像できるというものだ。流れ着いた先は地獄だろう。
一人の女のせいで、国は衰退の道をゆっくりと歩んでいる。
あの女が死んだという知らせは届かない。
長く苦しんで死んでくれ。そう願わずにはいられなかった。
「ああ」
「公爵様の御様子は如何でしたか?」
「自分が何をしたのか理解していなかった」
「それはまた……」
「公爵もそうだが、国王陛下もレオーナ様の価値を全く理解していなかった」
「やはりそうでしたか。では……」
「レオーナ様が描く絵の価値を知らない。彼らにとっては『綺麗な絵』としか捉える事はできなかったのだろう」
「国王陛下方を責めることはできません」
「ああ、我々も知らなかった。枢機卿猊下に言われるまでな。情けない話だ」
『祝福を受けし者』の存在は伝説とされている。
それはそうだろう。
一生に一度会えるかどうか分からない相手だ。
世界の大半の人間は神話時代の話だと思っている。
その上、『祝福を受けし者』の『加護を受けた者』など更に希少性が高い。
そんな存在がいる事自体信じられない。まさかその存在がレオーナ様だったとは。
「幸運を運んでくる絵、悪しきものを滅する絵。描き手であるレオーナ様が亡くなった以上は残っている絵は全て神殿に寄付する事が決まった」
「宜しいのですか?」
「どれが『幸運の絵』なのか誰も鑑定できない状況だ。中には真逆の『不幸を呼ぶ絵』がないとも限らない。下手に国に置いて何らかの災いが怒らないとも限らないからな」
「そうですか」
「残念だが仕方ない。レオーナ様はこの国に殺されたようなものだ。幸運を運んでくる絵ばかりを描き残してはいないだろう」
「……はい」
引き取り先はビンチ枢機卿の神殿だ。
芸術をこよなく愛するかの人なら悪いようにはされないだろう。
神殿から破門宣告をされたからといって、国が滅ぶ訳ではない。
それでも王家は権威を失い、周辺国から失笑と侮蔑を受けながらも何とか国の舵取りを行っていた。
最初の異変は、とある侯爵家のメイドからだった。
メイドはある日急に苦しみだし、高熱に魘されること十日後、息を引き取った。
次は伯爵家の庭師だ。
庭園の手入れ中に倒れてそのまま帰らぬ人となった。
その次はとある子爵家の次男だ。
何の前触れもなく原因不明の病を発症し亡くなった。
その後も次々と人が急死していく。
最初は流行り病かと思われた。
だが、平民達はいつも通りの生活をしている。
貴族の極一部の者だけが次々に謎の病に倒れていったのだ。
ある者は心臓麻痺を起こし、ある者は突然苦しみ出して泡を吹きながら悶死した。
一体何故こんな事が起こっているのか? 貴族達の間で噂が流れ始めた。
「それは本当か?!」
「はい、調査の結果、亡くなった者達には共通点がございました。全員がランジェリオン公爵家に以前勤めていた者達です。しかもレオーナ様の絵を所持しておりました」
「何故、レオーナ様の絵を?」
「分かりません。家族の誰も絵の事は知らなかったようです」
「レオーナ様が贈ったとは考えられないな。公爵も使用人に絵を贈るタイプじゃない。となると、盗んだのか?」
「恐らく」
「絵を持っていた者が謎の死を遂げたということか。まさか、あの絵が原因だというのか?」
「まだ断定はできませんが可能性は高いと思われます」
「まさか…………」
「調査を続けさせておりまが恐らく何も出てこないでしょう」
「その絵を撤収できるか?」
「可能です」
「ならば至急頼む」
「畏まりました」
それから数日後、絵の撤収が完了した。
回収した絵を調べたが特に変わったところはなかった。ただの偶然ではない。狙ったかのように公爵家の元使用人たちばかりだ。
レオーナ様の絵はビンチ枢機卿に献上し神殿に保管されることになった。
だから知らなかった。
まさかレオーナ様の絵を盗んだ者が他にもいた事を。
それが公爵の愛人であった女性だとは――――
かの女性は恋人の公爵とは別の男と結婚した。
実家の命令か、それとも落ち目となった公爵に見切りをつけたのかは分からない。
だが彼女の結婚相手は他国の羽振りの良い貴族だった。
彼女は結婚して暫くすると未亡人となった。事業に失敗した夫は多額の借金を苦にしての自殺だった。夫の借金のカタとして彼女は娼館へと売られていった。その後の行方は分からない。庇護欲をそそる容姿であるものの、美貌の持ち主という訳でもなく、若さも失っている彼女がどのような扱いを受けてきたのか想像できるというものだ。流れ着いた先は地獄だろう。
一人の女のせいで、国は衰退の道をゆっくりと歩んでいる。
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長く苦しんで死んでくれ。そう願わずにはいられなかった。
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