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20年後

23.公爵子息視点3

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 涙が枯れ果て、ようやく落ち着いた頃には部屋には僕と家令の二人しかいなかった。
 
「人払いさせました」

 僕の疑問に当たり前のように応える彼は公爵家の家令にはもったいないくらい出来た人物だ。何故、彼ほどの人が父に仕えているのだろう?

「私は王家に仕える家系なのです」

 再び疑問に応えてくれた。
 何も言っていないのに。
 それだけ僕が分かり易いという事だろう。

「これは老人の独り言でございます」

 そう前置きをして、家令は両親の事を話してくれた。僕の実母のことも一緒に。

 聞き終わった僕は実の両親がどれだけ身勝手な連中なのかを理解した。

「最悪だ」

「坊ちゃま」

「クズだ」

「坊ちゃま、口が悪うございます」

「ははっ。僕はそんな親から生まれた最悪の子供だ」

 自嘲気味に呟く僕を家令は咎めなかった。
 それが彼の優しさなのだと気付きながらも、つい愚痴ってしまう。
 
「母は……レオーナ様は本当に病死だったのか?」
 
「……はい。そう伺っております。もっとも、私共では調べる術がありませんでした。医師の診断は『病死』でございました。ただ……」
 
「ただ?」
 
「奥様の御遺体は火葬されました」
 
「火葬!?」
 
「はい」
 
「バカな!何故!?他国ならともかく、この国で火葬など!」
 
「申し訳ありません。奥様を火葬するように命じられたのは国王陛下です」
 
「…………」

 つまり、そういうことか。
 母の遺体から何かが出たということだろう。それも良くないモノが。
 それを世間の目に触れさせるわけにはいかないのだ。だから火葬にした。
 そしてそれは恐らく……。
 
「坊ちゃまのお考えの通りかと思われます」
 
「僕の……」
 
「当時、奥様は幽閉同然でした。口の堅い数名の使用人たちとお抱えの医師以外とは接触すら許されておりませんでした。その僅かな使用人たちもまた奥様が亡くなった後に皆解雇され、今や消息を知る者はおりません」
 
「……そうか」

 そこまでして隠さなければいけなかったのか。

「そこまで僕に話して大丈夫なのか?」
 
「さぁ……どうでしょう?けれど他の者と違って私に命令できる者は王族と決まっております。そう易々とは始末される事はありませんよ」
 
「……そうだね」
 
「それに私はもうすぐ家令を退職いたします」
 
「え?」
 
「次の就職先は坊ちゃまの護衛でございます」
 
「護衛って……」
 
「ああ、ご安心ください。騎士ではなく従者として側に侍りますので。これでも腕っぷしには自信があるんですよ?」
 
「いや、そうじゃなくて」
 
「坊ちゃまの事は私が命に代えてもお守りいたします」
 
「だから!」
 
「坊ちゃま、私に何なりとお申し付けください」
 
「え?」
 
「坊ちゃまのなさりたいことは何ですか?」

 したいこと……なんだろう。
 何がしたいのかなんて考えたことも無かった。
 王弟である公爵の父を持ち、いずれ公爵家を継ぐために幼少期から勉強に励んできた。それ以外に何かをするなんて考えたこともない。
 
「坊ちゃま、ゆっくりでいいんです。ゆっくりと何をしたいのか、これからどうするのかいきましょう」


 何故だろう。
 枯れ果てたはずの涙がまた少しずつ流れてくるのを止められなかった。

 

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