上 下
4 / 82
本編

4.国王視点2

しおりを挟む
「モンティーヌ公爵!!何故ここに!?」

 クロードよ、何故も何も私が呼んだからに決まっておるだろう。ついに思考能力まで低下したのか。

「何故、とはおかしなことを仰います。私達は娘と殿下との婚約白紙の手続きのために登城したのです」

「婚約白紙?手続き?」

「そうです」

「だ、だが……彼女は死んだと……」

「ええ、亡くなってまで殿下の婚約者のままでいさせるなど出来かねます。正式な手続きを踏んで、娘を綺麗なままでいさせたいのです。ええ、何処かの誰かの婚約者という汚点を背負わずに済むように」

「モンティーヌ公爵!私は王太子だ!不敬だぞっ!!」

 自分が馬鹿にされた事に気付いたクロードは激昂するが、お前が言える立場かと半ば呆れてしまった。ここは己の不貞を恥じて許しを請う場面だ。それが何故わからない!

 案の定というべきか、モンティーヌ公爵はギロリと鋭い目をクロードに向けた。眼光鋭い公爵の目はそれだけでクロードを怯えさせるには十分だった。
 まるで蛇に睨まれた蛙だ。
 それか肉食獣に捕食されかけている小動物。
 いずれにせよ、王太子のする対応ではない。


「不敬?己の立場を弁えた者だけが言えるセリフですな。まるで自分は偉いと勘違いなさっているようだ。ははっ。これは失礼。実際、まだ王太子位にいらっしゃいました。確かにこの国では偉い部類に入るのでしょう。もっとも替えきく存在でもある事をお忘れでいらっしゃる。王位継承権を持っているのは殿下だけではありませんよ?」

「ぐっ…………」

「王太子殿下は偶々、王妃殿下から生まれたというだけの存在。そうでなければ第二王子の殿下が王位継承権第一位にはなれません。なにしろ、第一王子殿下がいらっしゃいますからね」

「兄上は臣下に降られた!!」

「ええ、ですが王位継承権はお持ちです。王族にいつでも復活できます。勿論、王姉である私の妻も王位継承権を持っていますし、私の子供達に当然あります。順位は相当低いですが私にもありますしね」

「わ、私は……嫡出だ」

「はい。ただ嫡出の男子だというだけで選ばれた王太子です」

「ぶれい……もの」

「正当性を謳われるのならもっと大きな声で言うと宜しい」

 遂に顔を俯かせたクロードに同情はしない。
 公爵にソレを言わせたお前が悪い。血筋を誇るのは悪い事では無い。それは時に武器になる。だが自分よりも血筋の良い相手には通用しない手だ。

 そして公爵に言っている事は正しい。

 クロードに言いながら私にも言っている。
 相変わらず辛辣な男だ。

 父王の最初の王妃。
 それは姉上の母君だ。
 大国の王女殿下で、「賢妃」として名高かった。
 今の姉上によく似ている。
 黒髪の巻き毛にアメジストの瞳。

 もしも、姉上が王子ならば私は今この玉座に座っていなかっただろう。
 姉上の母君が亡くなり、次の王妃に選ばれたのは私の母だった。母は偶々王子を産んでいたからこそ幸運にも継室に選ばれた。そうでなければ、伯爵家の側妃が王妃にはなれなかった筈だ。

 
 

しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

断罪されたので、私の過去を皆様に追体験していただきましょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が真実を白日の下に晒す最高の機会を得たお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。 気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。 そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。 家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。 そして妹の婚約まで決まった。 特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。 ※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。 ※えろが追加される場合はr−18に変更します。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

処理中です...