上 下
51 / 54
番外編~在りし日の彼ら~

51.容疑者5

しおりを挟む
 その日、ロイドはご機嫌だった。
 ストーカーと化した元恋人が亡くなったからだ。

(ほんとに鬱陶しい女だった。いなくなってくれて助かった。誰の仕業なのかは知らないけどいい仕事してくれる)

 そんなことを考えながら、足取り軽く社交場へと向かう。

「あぁ、来たか。待っておったぞ」
 
 ロイドを見るなり声をかけてきたのは、白髪交じりで年配の男性だ。クラシカルなスーツ姿がよく似合う彼は、イートン校の元学長。カーディ元学長その人であった。

「学長……」

「ははっ。もう学長ではない」

「はぁ……」

「久しぶりだな」

「ええ、学長もお元気そうで何よりです」

「ああ、君もな。最近、何かと騒がしいようだが。大丈夫なのか?」

「それはもう。ですが、珍しいですね。先生がそんなに心配するなんて」

「心配にもなる。君の所にはマスミがいるだろう?彼の身が心配だ」

「それならばご心配なく。マスミには指一本触れさせませんから」
 
「そうだといいのだが……それにしても今日は随分と上機嫌だね」
 
「分かりますか?」
 
「勿論だとも。さっきから鼻歌まで聞こえてくる始末だからな」
 
「これは失礼しました」
 
「別に謝る必要はないよ。むしろ私としては、その方が安心できるというものだ」
 
「それはどういう意味ですか?」
 
「言葉通りの意味だ」
 
「それはまた光栄なことですね」
 
「ところで例の件だが――――」


 そうして始まった元学長の話を、ロイドは笑顔のまま聞いていた。
 基本、相手の話を聞かないロイドだったが、数少ない例外がこの元学長だった。彼はマスミを大層気に入っている。それは学生時代から変わらない。マスミがイギリスに来てから半ば後見人のような立場で彼を見守っていた。マスミもイギリスの恩師であり、身近な「おじいちゃん」のような立場の元学長を慕っていた。
 だからこそ、ロイドはカーディ元学長を「その他大勢」のうちの一人にはしなかった。それは彼にとっては無意識のうちに行われていたことでもあった。
 こうしてロイドは、カーディ元学長との会話を終えた。
 
「では私はこれで」
 
「うむ。しっかり励みなさい」
 
「はい」

 そしてロイドは会場へと入っていった。
 彼の後ろ姿を、カーディ元学長はじっと見つめ続けていた。

 



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢の断罪イベント【完結済】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:119

【完結】結婚式当日に婚約破棄されましたが、何か?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:1,135

卒業からの1週間

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:8

浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:4,827

聖女の祈りを胡散臭いものだと切り捨てた陛下は愚かでしたね。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,192pt お気に入り:635

離婚を告げられることは、既に知っていましたので。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:33,573pt お気に入り:354

私が消えた後のこと

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,061pt お気に入り:629

私の夫が未亡人に懸想しているので、離婚してあげようと思います

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,574pt お気に入り:1,947

処理中です...