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番外編~イートン校の誇りが守られた日~
36.新学長の決意
しおりを挟むカーディ学長は頑固だ。
そして一度言い出したことを簡単には引っ込められない性格でもある。つまり融通が利かない男なのだ。一度こうだと決めたらテコでも動かない男なのである。なので当然、学長就任の挨拶の際には問題児に関して真っ先にとりあげた。カーディ学長なりの問題に対する決意表明でもあったのだ。
「この数年間は苦難の日々になるだろう。それでも我々は前進しなければならない。それが我が校の誇りと名誉を守る事に繋がるのだ。逃げる事は決して許されない。逃げるという選択は我がイートン校が培ってきた栄光をドブに捨てるも同然。何があっても逃げる事は許されないのだ。逃げ出せば最後、我々はこの国の歴史ある名門校としての名誉を全て失う。この先百年は間違いなく恥辱にさらされるだろう。そんな事はあってはならない。誇り高きイートン校の諸君よ、我々は前に進むしかないのだ。ついてきてくれたまえ」
その演説は鬼気迫るものであった。
カーディ学長の熱意の表明であり、決意の表れである。
だがしかし聞かされた他の教員や生徒達の心は「はあ!?」であった。
いや、寧ろ「このオッサン、何言ってんだ?」という心境だった。事の重大さを未だ理解していなかった。
(((((ついてきれくれ、とは一体どこへ??)))))
教員と生徒の心が一致した瞬間である。
「彼の所業は皆も知っているはず。故に誰かがリードを引かねばならないのだ! それは決して離してはならないリードをな!」
そこまで言われると流石に皆は気付いた。学長の言いたいことを。教員達の顔色がサッと変わった。やっと事の重要性を理解し始めたようだ。中には青い顔をしている者すらいる。それほどまでに恐ろしい事態なのだ。
ロイド・マクスタードの首に頑丈な首輪を嵌めてリードを持つ……悪夢だろう。
「いいかね、諸君らはエリート中のエリートだ。選ばれた人間だと言ってもいい。だからこそ彼に道を示し導いていかなければならない。彼から目を逸らすことは絶対に許されない!!!」
そうして、カーディ学長以外の人々は今この時になって、ようやく理解したのだ。
いや、思い出したと言ってもいい。自分達は例の学生を無事にイートン校を卒業させなければならない恐怖を。優秀なのにヤバすぎる生物に精神的に侵食されていている事を。
皆は真っ白になった。
どこまでも真っ白に。
教師たちは学生よりも更に恐怖に慄いた。
自分達の置かれた最悪な現状を正確に理解していたからだ。そして、今頃になって気づいた。学長選後に何故カーディ学長があれほど必死になって学長を辞退しようとしていたのか。なぜあれほどミュレー前学長を引き止めようとしていたのか。その訳をやっと理解した。
そうして気づいた。
前学長が急いで退職した訳を。
カーディ学長にくれぐれも内密にと言っていた訳を。知っていたのだ。自分が退職することを知ればカーディ学長は必ず引き止めると。退職を妨害すると。
だから、速やかに去ったのだ。
一人で逃げやがった――――やっと彼らは気付いた。
数秒後、から凄まじい叫びが響いたのは言うまでもない。
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