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番外編~イートン校の誇りが守られた日~

35.元学長の退職

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「はぁぁぁぁぁぁぁ!? 退職するぅぅぅぅ!!?」

 カーディ学長はその報告を受けて絶叫した。
 そして彼は思う。
 あの狸が――――と。


「は、はい」

「いつだ!」

「はっ!?」

(鈍い奴だな!『はっ?』ではないだろうが!!)

「いつ退職届けが受理されたんだ!」
 
「きょ、今日です……」
 
「あぁぁん!?」
 
「ひっ!」
 
「何故それを早く言わないのだ!馬鹿者!!」
 
「す、すみません!!」

 そう、今朝方、職員室へ出勤した職員達がざわついていた理由。
 それはアルスラン・ミュレー前学長の突然の退職届が原因だったのだ。

「私はミュレー前学長の退職を聞いておらん!!」

「そ、それはミュレー前学長が『自分が退職すると聞けばカーディ学長に何かと気を遣わせてしまう』とおっしゃって……そのぉ……内密にと……」

 カーディ学長は怒りで震えた。

(あのクソ狸め……!何が気遣われるんだ!ふざけるな!!自分一人で安全地帯に逃げるつもりか!!)
 
「……それで?」
 
「はい?……あっ!それでというのは……」
 
「前学長が辞めるんだ。何もしない訳にはいくまい」
 
「はい……。それが……ミュレー前学長は『皆に見送られると泣いてしまう。だから別れを言わずに立ち去らせてくれ』と言っていまして……一時間前に立ち去られました」
 
「……はぁぁぁ!!!!?」

 カーディ学長は二度目の叫び声を上げた。今度は絶叫というより、悲鳴のような叫び声が学長室に響いたのである。









 


(あの狸めぇえぇ!!!)

 カーディ学長は頭を抱えたくなった。そして思うのであった。

「覚悟を決めなければならないな……」

(例の学生の手綱を何としても我々が取らなければならい。しかし、それに失敗した場合どうなる?……もしそうなれば、間違いなくイートン校は混乱するだろう。それも悪い意味で。最悪の事態だけは避けたい。だが、あの学生の扱いは難しい……)

 カーディ学長は頭痛を覚えてこめかみを押さえるのであった。

(はぁ~。まさかこの私が、こんな事を悩む日が来るとはな……本当に嫌になる……)

 要領のいい人間というのは何かと得だ。
 例えば就職にしてもそうであろう。仕事においても、人生においても、人との関わり合いでもそうであると思う。
 逆に言えば要領の悪い人間は何かと損をする。人間関係もそうだし、社会に出た時にも苦労するのが目に見えていると言えるだろう。

 カーディ学長は間違いなく要領の悪い人間だった。昔から不器用な男なのである。そしてそれは今も変わっていない。

 イートン校の先輩後輩の間柄だった頃からカーディ学長は何かとミュレー前学長に構われていた。人付き合いの苦手なカーディ学長はその都度苦い思いをしていた。長じてまさか同じ教職者になるとは思いもしなかった。笑顔で再会を喜ぶミュレー前学長と違いカーディ学長は「腐れ縁」の言葉を頭によぎったと共に苦々しい思いで挨拶を交わしたのであった。



 

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